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「このジャケットを買わないで」という全面広告
パンデミック後も、時代を超えて消費者が抱いている問いかけが少なくとも10種類ある。消費者は、この問いかけに対する答えを求めている。しかも、頂点に君臨する怪物企業やミニマーケットプレイスでは答えにならない問いかけがあるのだ。
あなたのブランドが、こうした問いかけに対して明快な答えとなれば、特定のカテゴリーでしっかり差別化ができるだけでなく、それなりに抜け目のなさもあれば、規模に似つかわしくないほど大きな売り上げと利幅を確保する収益力も発揮するはずだ。
②「活動家」型
■消費者の問いかけ「自分の価値観と一致するブランドはどれ?」
2011年のアメリカの小売市場は、グレートリセッション(2008年のリーマン・ショックに端を発した深刻な景気後退)のとばっちりで、依然としてぐらついていた。小売りの売上高は、着実に回復していたとはいえ、メルトダウン前の水準には戻っておらず、ほとんどの小売業者が、余波から抜けきれていなかった。
小売業界にとって、クリスマス商戦への重要なスタート時期となる11月第4金曜日のブラックフライデーには、あらゆるカテゴリーの小売業者が、あの手この手で顧客の注意を引いて、少しでも自社製品を買ってもらおうと、メディアチャネルの垣根を越えて競い合っていた。
市場の喧騒と不安に包まれたブラックフライデー当日、ある企業が『ニューヨークタイムズ』紙に全面広告を打った。レイアウトは、中央に写真を配しただけの無駄を削ぎ落としたシンプルでわかりやすいものだった。写真にはジャケットが写っている。その上に太字で「このジャケットを買わないで」とある。
それだけでも度肝を抜かれたのだが、広告の下のほうには2段組みの文章があり、このブランドが販売する商品の環境への影響が詳しく書かれ、消費者の購入欲を削ぐ内容となっていた。おまけに、自社で開設した同ブランドの中古品を販売するリセールマーケットプレイスの存在にも触れていて、商品を新規購入しなくても中古で買えると説得しているかのようなものだった。
今や小売業界の伝説にもなっているこの広告を打ったのは、アウトドアウェアブランドのパタゴニア。同社では、「共通テーマ」という意味を持つ「コモン・スレッド」プログラムに取り組んでいて、広告はその呼びかけとしての意味もあった。このプログラムは、人間の消費活動が引き起こす環境への影響について、社会を啓蒙する狙いがある。
また、パタゴニアが、素材や生産の環境負荷を抑えるために高い基準を設定しているとはいえ、依然として同社製品が廃棄物を生み出し、CO2を排出し、最終的に埋め立て処分になると訴えている。気候変動の影響を、本当の意味で逆転させるには、消費を減らすこと以外にないと広告は主張している。購入自体を減らし、もっと補修や修繕をして、長く着続けようという呼びかけだ。とどめに、eベイにあるパタゴニアのオンラインショップを案内していた。こちらは、中古のパタゴニア製品の再販サイトなのだ。
明確な信念を掲げ、ありていに言うなら腹をくくって、こういう行動に踏み切ったことで、「活動家」や「行動派」としてのパタゴニアのポジションが揺るぎないものとなった。