(※写真はイメージです/PIXTA)

築40年以上の賃貸アパートに住む81歳の独居老人は、ある日物件のオーナーから「立退料170万円を支払う代わりに出ていってほしい」と告げられました。しかし、高齢の貸借人は「引っ越せない」と、立退き要求を断固拒否。退去をめぐって裁判沙汰になりました。はたして老人は退去しなければならないのか、賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

裁判所は賃貸人の事情と「立退き料の提供」を重視

裁判所は、本件では、賃貸人側の資金難という事情を重視し、これに加えて立退き料の提供があることも重視して、以下のように述べて立退きを認めました。

 

「本件共同住宅(及びその借地権)を地主所有の本件借地と一括して売却する必要性が高かったというべきで、賃貸人において、地主と共にそのような計画を立て、本件賃貸借契約の更新を拒絶したこともやむを得なかったというべきである。」

 

「他方、賃借人における本件建物の使用の必要性は、住居とすることに尽きるもので、高齢で要介護2の状態にあり、外出時には電動カートの利用を要する状況にあるものの、本件建物それ自体は、そのような状況にある被告の居住に適したものとは必ずしも言い難いもので、賃貸人の好意によって事実上居住の便宜が図られていたにすぎないものもあり、

 

むしろ、賃借人のいう条件を満たす転居先も存在すること、本件建物の居住期間などにも照らすと賃貸人が賃借人に対し一定の立退料を提供するのであれば、更新拒絶の正当性を補完するものと考えられる。」

 

「そして、引越料その他の転居に要するものと見込まれる費用のほか、賃貸人が170万円の立退料の提供の申出をしていること、生活保護受給者である賃借人には一定の転居費用の支給も見込まれていること、その他本件に顕れた一切の事情を総合すると、170万円の立退料が提供されるならば、正当事由の補完として十分なものと考えられる。」


 

本件は、賃貸人の資金難を主たる理由とした賃貸物件の明渡に関する裁判例として参考になる事例といえます。

 

※この記事は、2021年4月3日時点の情報に基づいて書かれています(2022年2月8日再監修済)。

 

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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