(※写真はイメージです/PIXTA)

東京になぜ「営団」と「都営」という2つの鉄道事業者が存在することになったのでしょうか。民営化と株式上場は、鉄道を単なる移動手段に限定されない、「元気な事業」に生まれ変わらせることができます。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で「地下鉄の謎」を明らかにします。

地下鉄一元化は利用者に直接的なメリットが

東京都交通局が地下鉄事業に参入したのは、戦後のことです。当初、営団地下鉄が東京都の地下鉄全般を運営することが常態で、東京都も出資をしていました。ところが、東京都も自分たち独自の地下鉄が欲しいと思ったのです。

 

昭和29年(1954)年3月には、都議会で都営地下鉄の建設が決議されます。中央政府にも要望を出していて、東京都は「住民の意向」を掲げて営団の独占に対抗します。実際に、戦後復興による人口増と都市部への集中、高度成長にともなう人流増加によって極端に交通機関が負担を増えていたからです。

 

それ以来、東京都心部の地下鉄網は、2つの会社によるライバル関係が続いています。平成16年(2004)に営団が民営化され、現在の東京メトロ(東京地下鉄株式会社)となりましたが、事実上、国営と都営の構図はそれほど変わらない状況です。なぜなら、民営化後も株主は中央政府と東京都のままだからです。

 

割合は、政府が半分以上の53.4%、東京都が46.6%です。過去には東京メトロの株式上場の話もあり、現在も完全民営化や早期上場を目指しているのですが、色々な経済状況の問題があって進まないようです。組織内部のパワーバランスの問題もあって、実現しづらい状況にあることも考えられます。

 

平成22年(2010)には石原慎太郎都知事(当時)が東京メトロと都営地下鉄を統合する「地下鉄一元化」を提起し、後任の猪瀬直樹都知事も経営統合に力を入れましたが、その後の都知事の代替わりとともにこの話は聞かれなくなりました(舛添要一都知事の時代にも当時都議会議員であった柳ケ瀬裕文現参議院議員がこの問題について一般質問で言及しています)。

 

地下鉄一元化には、利用者に直接的な利益があります。初乗り料金の重複解消です。

 

通常、鉄道運賃は初乗り運賃と距離運賃で構成されています。初乗り運賃は基本料金のようなもので、運行各社が設定した最低単位の乗車距離によって決められています。これに乗車区間や乗車距離によって料金が加算されます。

 

複数の鉄道会社が相互乗り入れによって直通運転をしている場合、利用者は乗り換えなしで目的地まで複数の鉄道会社を利用することになるので、便利ではありますが初乗り運賃は利用する運行会社ごとに加算されていきます。東京メトロと都営地下鉄には、乗り継ぎの際の初乗り運賃に数十円の特別割引が適用されてはいますが、経営統合されれば両方から初乗り運賃を取られるという不毛な状況はなくなります。地下鉄全体の一元的な運営は、利用者ベースで考えることができるようになるのです。

 

この経営統合の話が出てきたのは、営団地下鉄の民営化の際、政府が保有する株式の売却話があったからです。すると、主要な株主は東京都になるので、都営地下鉄と一緒に運営できるようになるという話でもあったのです。しかし、統合した際には東京都の公営事業となってしまうのか、都営地下鉄も全面的に民営化するのかといった問題も出てきます。なかなか一元化への道のりは遠いようです。

 

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※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

現在の日本の政治や経済のムードを変えていくにはどうしたらよいのでしょうか。 タックスペイヤー(納税者)やリスクを取って挑戦する人を大事にする政治を作っていくことが求められているといいいます。 本書には「世の中に…

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