老人ホームもいろいろ。人生もいろいろ
老人ホームについて、少し詳しく考えていきましょう。
老人ホームとひと口に言っても、老人ホームは千差万別です。「自立」と言って、元気な高齢者を対象とした老人ホームから、終末期の高齢者を対象としたホスピスのような老人ホームまで、さまざまな形態が存在しています。
さらに、話をややこしくしていることは、老人ホームは、「介護付き」「住宅型」そして「健康型」という3種類に区分され、特に、「介護付き」と「住宅型」は、実際に運営している事業者ですら、その区分を明確に理解することができないところです。
その上でさらに、「特別養護老人ホーム(特養)」や「介護老人保健施設(老健)」といった介護保険施設が加わりますから、素人には、まったく得体の知れないもの、ということになります。しかし、心配は不要です。なぜなら、介護業界で仕事をしている人の多くが、実は正しく理解などできていません。でも、老人ホームでは職員が毎日、仕事をしています。なんとかなっています。これが現実なのです。
私の感覚では、老人ホームとは、知れば知るほどわからなくなるもの。得体の知れないものだと思います。それではなぜ、このような、似たスキームで名称の違う老人ホームが、たくさんあるのでしょうか?
一つは、行政の縄張り意識、行政側の都合だと思います。そう考えなければ、私にも説明がつきません。
もう一つは、事業者側の都合です。読者のみなさんは、このことの詳細については知らなくてもよいと思うので多くは語りませんが、多くの老人ホームは、介護保険収入に経営を依存しすぎているため、さまざまな工夫をして、介護報酬の獲得に躍起になっています。
その結果、特養のような介護施設と同じような運営になってしまう、ということなのです。効率的に、効果的に介護保険報酬を得るためには、特養のスキームが報酬を一番取りやすいということなのです。その結果、さまざまなカテゴリーの老人ホームが、特養の代替品として、世の中にあふれているという理解でよいと思います。
当初、行政は、あらゆることを想定した上で、さまざまなカテゴリーの老人ホームスキームを作りましたが、作った人の意図に反し、みな、同じ内容になってしまっています。つまり、種類はたくさんあるけれど、そこでやっていることはみな同じ、という現象が起きているのです。
したがって、勉強すればするほど、教科書に書いてあることと、実際に事業者が運営している実態とが、かけ離れてしまっている、ということになっています。