老人ホームの質の問題は制度の問題
私はこのような今の現象は、「高齢期の生活」について、真剣に考え、生活スタイルを提案していかなければならない立場にある老人ホーム業界の怠慢以外の何物でもない、と考えています。
多くの老人ホーム運営事業者は、高齢期の生活提案など一切無視し、どうやればうまく介護保険報酬をたくさん獲得することができるかに終始しています。これが全介護事業者、全老人ホーム運営者の実態だと思います。
ただし、私は、この行動を手放しで非難する気は毛頭ありません。なぜなら、国が「そうしなさい」と言っているからです。
介護保険報酬は、介護保険法に規定されているものですが、この介護保険法が、いくたびかの法改定を重ね、今は、提供している介護支援サービスをしっかりと管理できていないと、まともに介護保険報酬を獲得することができないような仕組みになっています。
介護支援サービスの管理とは、ひと言で言えば、介護保険報酬を得るために必要とされる要件を管理することです。平たく言えば、要件を満たすための資格者を配置し、提供時間や提供日を管理すればよい、ということです。そこでは、人の質や提供されるサービス内容の質は無視されます。重要なことは「資格」や「時間」や「人数」なのです。
国家試験に合格した者をたくさん集めてたくさん配置すれば、報酬獲得のチャンスが拡大するようになっているわけです。
もっと言うと、高齢期の生活提案をするために欠かせない人材をいくら揃えたとしても、現実には1円にもなりません。それなら、介護福祉士や看護師、セラピスト、管理栄養士などの有資格者を誰でもいいので揃えたほうが儲かるようになっているのです。
老人ホーム運営会社の多くは、民間の営利企業です。したがって、自分たちが、どう立ち回れば儲かるかということを追求します。そして、それを実行します。当たり前の話です。当たり前のことを当たり前にしているだけなのです。批判をしたり、される話ではなく、仕組みの問題なのです。
はっきり言います。老人ホームの質の問題は、一企業の問題ということではなく、制度の問題だということなのです。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役