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ひと口に老人ホームというけれど……
私の肌感覚で申し上げると、自立型の高級老人ホーム(元気な高齢者用老人ホーム)には、かなり質の高い老人ホームが多くあります。ただし、一般庶民には、高嶺の花です。まさに「介護の沙汰も金次第」ということがわかります。
逆に、要介護者を対象としている介護型(ここでは、「介護付き」ではなく、主に要介護者をターゲット入居者としている老人ホームのことを指します)の老人ホームには、質の低い老人ホームが多いと感じています。なお、ここで言う「質」とは、生きていくための「住環境の質」のことを言います。介護サービスの質ではありません。
ちなみに、介護サービスの質は、介護職員の質とイコールなので、質の高い介護職員がたくさんいる老人ホームは、当然、質の高い老人ホームになります。
それでは、なぜ、このような現象、つまり、自立型ホームのほうが住環境の質が高くなるという現象が起きるのでしょうか? 答えは簡単です。自立型の老人ホームの場合、老人ホームを探して、入居を決めている人が本人、当事者だからです。そして多くのケースでは、親が勝手に老人ホームを探して、子供に結果だけを報告、子供から猛反対をされるというパターンが多く見られます。
当然、経済的な負担を子世代に依存するわけではないため、子世代が反対しても、親が強い意志を持って決断をすれば、どうにもなりません。そこには、親の財産を当てにしている子世代がいる、という構図が浮かび上がってきます。
しかし、介護型の老人ホームの場合、少し様子が違ってきます。老人ホームを探すのは、親、つまり入居者本人ではなく、ほとんどのケースは子世代です。世の中の老人ホームの大多数を占める介護型の老人ホームは、言い換えれば、親のためではなく、子供のために存在している、ということになります。もっと言えば、介護保険制度とは、要介護高齢者のためではなく、要介護高齢者を持つ子供のための制度だとも言えます。
乱暴な言い方になりますが、介護型の老人ホームは「他人事」のホームなのです。したがって、批判を恐れずに言えば、多くの子供世代にとっては、「自分が入居する老人ホームではないため、できるだけお手軽に、効率よく探したい、そしてできるだけ費用もかけたくない」ということになるのです。
さらに、この現象を加速させているのは、親は2人しかいない、という現実です。この2人のうち、子世代が老人ホームを探さなくてはならなくなるような状態に陥る親は、連れ合いが亡くなった後の50%以下のはずです。つまり1人以下です。
冷静に考えた場合、おおむね80歳以下の高齢者の多くは、重度の要介護状態にはなりません。さらに、たとえ要介護状態になったとしても、今の時代、認知症を発症し、さらに問題行動が出現しなければ、多くの介護支援サービスを受けながら、自立した生活を送ることは可能です。つまり、にっちもさっちもいかずに「老人ホームに入居」という名の隔離をしなければならなくなるケースは、実は、日本社会全体から見た場合、それほど多くはないケースだということなのです。
だから、多くの方が親の介護や老人ホームのことを勉強することの優先順位は上がりません。起きるかどうかわからない不確定事項について、事前に手を打つことは、今の日本社会はあまりにも忙しすぎるので、対応できないのではないでしょうか?