(写真はイメージです/PIXTA)

時代とともに新たな種類のハラスメントを耳にすることが増えてきています。本記事では、企業法務に詳しいAuthense法律事務所の弁護士の西尾公伸氏が、カスタマーハラスメント(カスハラ)について解説します。

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「カスタマーハラスメント」とは?

カスタマーハラスメントには法律上の定義はありませんが、一般的には、自社の従業員に対する顧客や取引先からの暴言や暴力、悪質なクレームなどの著しい迷惑行為のことをいいます。

 

カスタマーハラスメントの具体的な例は、以下のようなものです。

 

■カスタマーハラスメントの具体例

・従業員に対して「役立たず」などと暴言を吐く。

・胸倉をつかむ、突き飛ばすなどの暴行を加える。

・大声で怒鳴りながら長時間にわたって苦情を述べる。

・金銭や物品で誠意を見せるように不当に金品を要求する。

・SNSで誹謗中傷する。

・土下座を強要される。

 

これらの行為は、度が過ぎれば、刑法上の侮辱罪や暴行罪、業務妨害罪、強要罪などの犯罪に当たることもあります。そして、このようなハラスメント行為を顧客や取引先から受ければ、従業員に大きなストレスを与えることになり、従業員の心身の健康を害してしまうことにつながってしまう可能性もあります。

 

このようなハラスメント行為が深刻化していることをもあり、2018年3月、厚生労働省が設置した「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の報告書において、「顧客や取引先からの迷惑行為」として項目が設けられるなど、社会全体でカスタマーハラスメントへの対応についての議論が行われるようになりました。

「カスタマーハラスメント」がなぜ問題となるのか

(1) 従業員の心身の健康を害する。

 

まず、カスタマーハラスメントは、対応する従業員に精神的ストレスを与えるものであり、従業員の心身の健康を害するおそれがあります。「お客様は神様」という精神性は、丁寧な接客など高水準のサービスの提供に通じるものではあります。

 

しかし、この言葉を、どんな苦情に対してもひたすら耐え忍ばなければならない、などという誤った方向に解釈してしまうと、不合理なクレームであっても必死に受け止めようとしてしまい、多大なストレスを抱えて心身に不調をきたし、精神疾患につながるおそれもあります。

 

(2) 離職率増加などによる事業の停滞

 

カスタマーハラスメントへの対策を放置し、従業員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす状況が続けば、離職率が増加するおそれがあります。その結果、人材の流出が進み、事業が行き詰まる事態にもつながりかねません。

 

(3) 会社の安全配慮義務違反

 

労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定しており、企業は従業員の安全(心身の健康)に配慮しなければならないという安全配慮義務を負っています。

 

このことは、カスタマーハラスメントに対する場面でも同様で、カスタマーハラスメントによって従業員が心身を害することのないよう職場環境を整える義務を負っています。

 

そのため、企業がカスタマーハラスメントを放置して何も対策を取らなければ、安全配慮義務違反を理由に、従業員から損害賠償請求をされてしまう可能性もあります。カスタマーハラスメント対策を施さなければ、企業も従業員に対する加害者になりかねないのです。

 

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本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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