従業員の意識を変え、戦略的に育成する
単純な作業は効率化して自動化されにくい業務の収益割合を伸ばし、クライアントと長期的な関係を維持していくことが今後の事業戦略の基本的な考え方だとお伝えしてきました。こうした事業戦略を現場で実行するためには、それを可能とする組織の体制を整える必要があります。そこではAI時代に向けてどういった組織作りが必要かについてお伝えします。
組織依存の意識からの脱却
比較的安定した市場においては、これまで売れてきた商品やサービスを提供していれば、安定した売り上げを維持することができました。そのため、従業員も言われたことを言われたようにやっていれば、年功序列型の給与体系で終身雇用が保証されていました。しかし、変化が激しいこれからの時代においては、言われたことをやるだけの従業員を年功序列で定年まで雇用できる企業がどれだけあるでしょうか。
激しく変化する市場に対応するためには、現場に立つ従業員が市場のニーズの変化を察知して経営陣にフィードバックし、現場の従業員と経営陣が一体となって、市場の変化に合わせた商品・サービスを展開していくことが必要です。そのためには、言われたことだけをやっていればいいという組織依存の意識から従業員を脱却させる必要があります。
副業を認める大手企業も増えていますが、その理由の一つに、従業員に組織依存の意識から脱却して経営者意識を持って動いてほしい経営陣の思いもあります。
言われたことを言われた通りにやる仕事は自動化されやすい仕事でもあります。MITのエリック・ブリニョルフソン教授は、著書『機械との競争』で次のように述べています。
「上司の指示に従うだけの仕事をしていると、いつの間にか機械との競争に巻き込まれていることに気付くだろう。なぜなら指示に忠実に従うことに関しては、機械の方が人間よりもはるかに得意だからだ」
従業員も経営者意識を持つ
市場の変化への迅速な組織対応を、経営者が一人で実行するには限界があります。現場の状況に一番詳しいのは、現場の業務担当のメンバーです。業務の効率化、お客様への新たな提案、付加価値の高い新たなサービスの開発などを、現場を知らない人間が考えても実効性に乏しくなります。技術の進歩と市場の変化にアンテナを張り、現場の状況を踏まえて現場と経営陣が一体となって考えてはじめて実効性のある計画を現実に運用できます。
こうした好循環を作るには、まずは現場担当者が、「さらに業務を効率化し低コスト化するためにどうすればよいか」「新たに付加価値を発揮できる部分はないか」「クライアントのニーズをつかむ新たな提案はないか」といった経営改善の方法を自ら考えて上司に提案し、行動する意識を持つ必要があります。それは「経営者意識を持つ」ことに他ならず、組織に属しつつも組織に依存せずに経営に寄与することが求められます。