診療所ながら外来患者1日600人…地域を支えるかかりつけ医

一次医療圏で総合型医療を提供する無床診療所の事例から【前編】

診療所ながら外来患者1日600人…地域を支えるかかりつけ医
(※画像はイメージです/PIXTA)

地域医療の核となる、地域密着型の大型総合診療所として地域を支える。外来患者は1日平均600人、最多外来患者は1,000人を数える、地域を支えるかかりつけ医、医療法人社団三友会彩のクリニックの事例を紹介する。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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      複数の専門医集団として高度な医療を提供

      患者の良い評判は、患者の信頼を高め人を集める。地域に密着した診療所にとり、それが患者を集める近道だと考えたのだ。経営陣は、他の診療所との徹底的な差別化を図り患者の好評判を獲得するため、以下の経営方針を立てた。これらは、継続的定期的な治療を必要とする慢性疾患が増加する現代社会において、好評価を獲得し、多くの患者を集める診療所運営の秘訣と言える。

       

      【経営方針】
      ①複数の専門医集団として高度な医療を提供する
      ②地域に密着した診療所を目指し、かかりつけ医として家族全員を把握する
      ③高度な医療機器を装備し、迅速な診断を可能にする
      ④高いホスピタリティで患者に対応する
      ⑤患者の利便性を考え、可能な限り外来治療で対応する

       

      具体的には、第1に、多様な疾患の患者に対応し高度な医療を提供するため、常勤医師6 人は専門医を保持し続ける。また、来院した患者の幅広い疾患をカバーするため、消化器外科、呼吸器内科、脳神経外科、泌尿器科、小児科など非常勤の医師を多数雇用する。さらに、常勤医師は適切な診断・治療を行い誤診を防ぐために、毎朝、症例についてカンファレンスを行う。

       

      第2に、地域密着型診療所を目指し、医師、スタッフ全員が患者とその家族全員を把握し、かかりつけ医として相談できる体制をとる。介護保険利用についても親身になって患者の意思をサポートする。

       

      第3に、MRI やCT、上部下部内視鏡など設備を整え、必要な時に速やかに検査を行い、迅速に診断できるようにする。

       

      第4に、高いホスピタリティを心がけ、医師やスタッフは、患者に対する言葉使いや態度に気を配り、患者への言葉がけを大切にする。患者への積極的な関わりは、患者の異常に関する把握を迅速にする。

       

      また、可能な限り待ち時間を減らすよう工夫する。多くの患者に対し受付や会計を迅速に処理するため、受付カウンターは20 人ほどのスタッフで対応しており、1 階の入り口近辺、2 階の待合室にはコンシェルジュ(総合案内)が置かれている。これらは、診療所として珍しい配置である。施設内は清潔で爽やかな環境を保ち、清掃にも重点を置く。

       

      さらに、子供の患者には、治療を頑張ったご褒美として受診後に医師からおもちゃが手渡される。

       

      第5に、従来では入院して治療しなければならなかった患者の利便性を高める。例えば、外来で点滴治療ができるよう、常時30人が受療可能な点滴・注射室を設置し、対応する。

      以上の経営方針にもとづく取組みは、患者が持つ大病院志向と身近なかかりつけ医を求める両面に対応していると考えられる。近年では、慢性疾患の合併症により複数の病気を抱える患者が多く、総合的に治療を受けたい患者が多い。現在では、機能分化により紹介状なしで大病院を受診することはできない(1)。彩のクリニックの医療サービスは、これらの要望に応えている。

       

      クリニックの認知を広げるためのマーケティング・コミュニケーションも効果的に機能している。例えば、ウェブサイトの案内、診療所が発行する情報誌の配布をはじめ、杉本院長はラジオ番組や医療専門サイトに出演し、医療に関する情報を発信している。また、医師会や製薬会社での講演を続け、警察医も務めており、その存在を示している。さらに、共同経営者の駒崎医師、宮本医師は、医科大学の非常勤講師や同窓会役員、医師会の活動や研究会の座長などを積極的に行い、業界での認知を高めている。

       

      4. 共同経営のあり方

       

      共同経営は難しく、例えば、経営方針の相違、金銭問題などによってうまくいかないケースが多い。労働量の差などによる不平等感から不仲になるケースも多々ある。これらを事前に防ぐため、彩のクリニックでは、共同経営を円滑にするための決め事があり、3人は開設時に弁護士を通じて契約書を交わしている。これも良好な運営を支える秘訣の1つと言える。

       

      その内容は多岐に渡るが、例えば、第1に資産を保有しないこと、第2に3人が同じ仕事量で同じ報酬であること、第3に常に学び、専門医を取り続け、知識などスキルの向上を続けることである。具体的にその内容を一部取り上げてみる。第1 に、将来辞める時のことを考えて、資産を保有しないことを決めている。そのため、土地建物は借り受けている。開業を決めた場所の地主に依頼し、地主はその土地に建物を建て彩のクリニックに貸す、建貸し方式を採用している。医療機器もすべてリース契約により使用している。

       

      第2に、共同経営の基本条件は、仕事量も報酬も同じにすることである。

       

      これは続けていくうえでの重要な要素である。共同経営者3人は消化器外科医、循環器内科医、神経内科医とそれぞれ専門が異なる。しかしながら、基本的には、「総合医として何でも診る」をコンセプトとして診療を行っている。専門を重視した場合、対象疾患が異なり、治療も患者の集中もそれに伴う時間や診療報酬も異なってくる。実際にはすべて同じにすることは難しい。しかし、フォローし連携しあう信頼関係により、この契約は成立している。

       

      第3は、常に最新の知識をインプットすることを目的とし、専門医を持ち続けることである。経営方針にも示されているが、的確な診断のためには、常に最新の情報や知識を習得しておく必要がある。高度な医療の提供は、専門医の取得だけでは成り立たないが、1つの手段として有効であり、患者の認知も得やすい。そのため、3人は専門医の資格を維持し続けることを契約しており、お互いの学会出席による出張を認めている。

       

      例えば、総合内科専門医の場合は、5年毎に「認定内科医」と「総合内科専門医」の両方を更新しなければならない。認定更新に必要な単位数は75単位(認定内科医25単位+総合内科専門医50単位=75単位)である。

       

      単独で開業する開業医の多くは、学会への参加が難しい。一般的に、休診は患者に迷惑をかけるため、自分が不在になる時は代診の医師をお願いする必要がある。しかし、共同経営では日程の調整が可能となり、専門医の保持を可能としている。その他、共同経営により人脈も3 倍になり、各々のネットワークを活用した、医療機関との連携が行われている。

       

      杉本院長は、良好な運営について、「安定した共同経営は、お互いを認めて尊重することが何よりも重要である」と語る。承認と尊重は、経営者同士だけではなく、患者にもスタッフ間にも不可欠である。
       

       

      杉本ゆかり
      跡見学園女子大学兼任講師
      群馬大学大学院非常勤講師
      現代医療問題研究所所長

       

       

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