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外来患者は1日平均600人、病院並みの数
2. 彩のクリニックの概要
所沢の西南に位置し、池袋から西武池袋線で50分ほどにある小手指駅から徒歩3分、国道463号線からほど近い場所に診療所とは思えないほど毎日多くの患者が集まる無床の総合診療所がある。この診療所は3階建て2棟からなり、総敷地面積530㎡、車40台を収容できる駐車場が隣接している。
一般的に、診療所の商圏(通院する患者が生活する地理的な範囲)は、概ね2キロ程度と言われる中、「医療法人社団三友会彩のクリニック」には、遠くは伊豆諸島の神津島からクチコミを頼りに患者が受診する。診療時間は、月曜から金曜は午前9 時から午後6 時まで、土曜、祝日も12時まで診療を行う。お昼を過ぎた頃、ある看護師が、「この後からが院長の時間なの」とつぶやいた。確かに、その後も杉本院長の診察は続き、14時近くまで患者は待合室で待っていた。
常勤医師は、消化器外科医、循環器内科医3人、神経内科医、整形外科医の計6人で構成されている。
特徴は、診療所ながら常勤医師の全員が専門医を持つ。常勤医師に加え、非常勤医師は約20人を数え、従業員規模は120人と大所帯である。設備はMRI、CT、上部下部内視鏡、リハビリテーション室等を完備し、30人が同時に処置可能な点滴室など、中規模病院と同様の設備を整えている。この設備の充実により、一般的な診療所では難しい即日の診断を可能としている。
掲げている診療科は、内科、外科、小児科、胃腸科、循環器科、神経内科、呼吸器科、リハビリ科、放射線科、整形外科と多岐に渡る。その他、人間ドック(希望により脳ドック、肺がんドック、循環器ドック、各種オプション検査有)、はり治療、各種健診、予防接種も行う。特殊外来は、栄養指導 (管理栄養士により実施)、禁煙外来、ペースメーカー外来、眼瞼・顔面けいれんのボツリヌス治療、在宅酸素療法・睡眠時無呼吸症候群治療を行っている。
地域密着型として、訪問診療をはじめ、がん患者への通院による抗がん剤投与も行っている。診療所における診療報酬を考えるとリハビリテーションのコストバランスは決して良くない。
しかし、患者の要望を考えて、理学療法などのリハビリテーションや、はり治療を取り入れており、患者のあらゆる疾患・症状に対応している。門前の調剤薬局は2社あり、月間の処方箋発行枚数は7,000枚を超える。製薬会社のMRによると、処方箋枚数は近隣の大学病院に匹敵しており、患者の多さを物語る。
外来の患者数について、一般的な内科系診療所の場合、外来患者は1日30人程度が来院すれば経営が成り立つと指摘される。彩のクリニックにおける外来患者は1日平均600人程度であり、大病院並みの外来患者数を誇る。驚くことに、診療所ながら最高1日外来患者数は約1,000人が報告されている。
3.彩のクリニックのユニークな設立経緯と運営の秘訣
杉本院長は、診療所の経営について、「診療所経営を安定させるためには、患者の望む診療所を目指し信頼を獲得する必要がある。そのため、早く正しい診断を行い、早期に的確な治療を開始し、病状が改善するよう日々診療に携わっている。これからの医療は常に患者のニーズを分析し、患者は医師に何を求めているのかを考えなければならない。診療所に求める患者の深層心理を読取りながら、かかりつけ医であり、高度な医療を提供できる診療所を目指す。」と語る。
彩のクリニックは1995年に開業する。法人名「三友会」は、論語の「益者三友」からとった。交際して益になる友は三種(正直な友、誠実な友、物知りで賢明な友)ある、という意味をもつ。また、クリニックの名称は、埼玉県の愛称である彩の国から名付けた。開業場所は、小手指北、南地区の診療圏調査を行い、ニーズに合うと判断して決定した。
経営の特徴はユニークであり、駒崎敏郎氏、宮本直政氏、杉本秀芳氏3人の医師による共同経営によって運営されている。開業当時、金融機関は共同経営に対する金融支援を拒んでいた。単独の医師の評価は可能であるものの、共同経営では、経営方針の不一致や労働と報酬の不平等を理由とした内部分裂による失敗例を多くみていることが原因である。
そのため、資金調達には困難を期したが、近隣の信用組合が期待を含め支援を行う。のちに、このクリニックが所沢市の主要医療機関になることは、その時、誰も思わなかったであろう。経営が軌道に乗った頃、大手金融機関がメインバンクとして名乗りをあげるが、信用組合への恩情を忘れず、規模拡大のために複数の金融機関との付き合いを持つものの、信用組合を最優先し信頼関係を深めている。
彩のクリニックの経営陣3人は開業時において、これからのクリニックは規模の小さい単独開業ではなく、高度の医療設備と技術を持つ大規模の診療所が患者のニーズを満たすと考えていた。そして、早期に来院患者数を上昇させるための施策について議論を重ねた。行きついた答えは、患者からの絶対的な好評判を得ることであった。