目指すべきは「プチ・アンティーク」な東京!?
日本の昭和後期から平成期の区分所有マンションも、一つの時代の建築スタイルだと捉えてみてはどうだろう。そこに面白味を感じられれば、東京という街にも違ったテイストが出てくる気がする。
私はそういった近郊の街の風景が、プチ・アンティーク化するのではないかと思っている。どういうことか説明しよう。
東京の渋谷区代官山には、「ヒルサイドテラス」という日本の街づくりの傑作がある。槇文彦氏という、日本が世界に誇る建築家の設計による街である。ハッキリ言うと、あれは出来すぎである。
ヒルサイドテラスの場合、街づくりが始まってすでに半世紀以上が経過したが、まだまだ色褪(いろあ)せない。
ヒルサイドテラスの大家さんは、朝倉家という周辺の地主さんである。かつて私が『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)を著した際、当時のご当主に取材をさせていただいた。様々なお話をうかがったが、印象的だったのは「ヒルサイドテラスは築年数を重ねるごとに美しくなっている」という言葉だった。街や建物としては、まさに理想だろう。
東京郊外の建物も、遠く及ばないものがほとんどであるとはいえ、多かれ少なかれヒルサイドテラスに影響されているのではないか。
それぞれの建築家が思いを込めたマンションの建物は、時に成熟の美しさを見せてくれる。もちろん、それには適切なメンテナンスを施し、センスの良い装飾がなされれば、という条件は付く。
仮にそういったマンションが2050年の東京近郊に存在していれば、そこには建物の成熟美を見せてくれるプチ・アンティークな風景が生まれている気がする。ちょっと楽観的すぎるだろうか。
候補としては自由が丘、下北沢、阿佐ヶ谷、西荻窪、代々木上原、旗の台あたりである。実際に私が2050年に答え合わせをすることはできないかもしれないが、その時は若い読者のみなさんに、ぜひお願いしたい。
榊 淳司
住宅ジャーナリスト