入社しても朝来て午後には辞めてしまう
■PTAも参加する“仕事説明会”
この取り組みはそれなりに成果を上げていった。同高校の進路指導の女性教師はキャリア支援活動に熱心に取り組む一方、この間に様々なデータを収集、効果を分析した。それによれば、退学者、遅刻者、懲戒を受ける生徒は着実に減少し、一時100人を超えた卒業時の就職未決定者は40人余りにまで減ったという。
こうしたこの高校の取り組みと成果が府内の同レベルの高校で話題になり、あちこちの高校から同友会にキャリア教育、キャリア支援を求めて声がかかるようになった。結果、積極的に参加してきた経営者の中には、あまりの忙しさに「しんどい」と漏らす人も出てきた。このため杉山尚治事務局長(現・専務理事)が間に入り、対象校、参加者、日程を調整することになった。「すべての高校に出向くのは無理。いったん府全体を対象とすることをやめて、同友会の地区ブロックごとに実施するようにし、内容も練り直すことにしました」
実はそれ以前から、キャリア支援に関連していくつか別の取り組みがスタートしていた。というのも教師の間にも熱意とスキルの差があり、何よりも教師が就職先の実態を知らないと生徒の就職相談に十分対応できない。
これでは、せっかくのキャリア支援授業が生きてこない。そこで当時、高校求人部長だった松下工作所社長の松下寛史氏らは「若い先生たちに中小企業の実態、例えば経営者がどういうことを考えているかなどを知ってもらうために企業を訪問してもらったうえで、討論する場を設ける」ことにした。
ついで2014年度からは生徒やPTAにも中小企業のありのままの姿を理解してもらうため、地元にある高校のPTAに企業見学に来てもらうことにした。想定した以上の参加者数で、松下氏らは驚いたという。
もっとも、ブロック別に分かれたことで、高校側との付き合いに温度差が生じているようだ。これは高校生の就職が、ハローワークの取り組み姿勢に影響されるからでもある。とはいえ、例えば中河内ブロックでは、次のような取り組みが始まっている。
現在、大阪同友会副代表理事を務める食品卸マルキチ社長の木村顕治氏によると、「企業見学会が始まったころ、生徒は来てくれるが入社してくれない。入社しても、極端な場合、朝来て午後には辞めてしまう場合さえある」ということが続いた。
「何でやろ。いろいろ考えた末に行き着いたのは、やりたい仕事と現実の仕事との間にミスマッチが生じているのやないかということ。そこで、数年前から行っていた会社説明会ではなく、(情報をダウンサイジングして)企業の仕事説明会をやろうということになったのです」という。
東大阪市にある府のインキュベーター関連施設に70社余りの会社がブースを出し、例えば江戸元禄時代から続く食品卸業の経営者である木村氏は「うちはこういう食品を扱っていて、レストランや菓子メーカーなどに商品説明しながら売り込みに行くのがメインの仕事。ほかに総務や経理の仕事もあります」と丁寧に説明するのだという。
「今年で2回目だが、生徒だけでなく、PTAの方も見に来られる。参加している会社には、採用予定のないところもあるが、地域にはこういう会社があるのだと知ってもらう意味は大きい。仮に生徒が地元の会社で働きたいと思い、地域に残ってくれれば、地域は人口減による疲弊から免れることができます。商店も店を閉めなくていい。この催しが10年間続くと、相当面白いことになるのではないかと期待しています」と木村氏は声を弾ませる。
山田氏の会社では、インターンシップで訪れた近くの工業高校に通う女子生徒が在学中にアルバイトを経験、4年前から溶接工として働きだしている。実家はシングルマザーの家庭だが、「溶接が好きだと言って、頑張って働いています」という。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー