コロナ禍を経たサードブレイスオフィス利用の方向性~郊外でのニーズ拡大
1.「テレワーク」対応としての利用
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「テレワーク」が急速に普及している。
国土交通省「テレワーク人口実態調査(2020年度)」によれば、「テレワークの実施場所」として、「自宅」との回答が9割に達し、「サテライトオフィス」との回答を上回った。しかし、コロナウィルス感染拡大の収束後は、再び、自宅より執務環境が整った「サテライトオフィス」の利用を希望する就業者が増えることが予想される。
住宅地からアクセスのよい郊外エリアにおいて、サテライトオフィスの利用ニーズは更に高まるだろう。
2.BCP対応、事業拠点の分散先としての利用
帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2021年調査)によれば、「事業の継続が困難になると想定しているリスク」について、「感染症(60%)」を挙げる回答が大幅に増加し、「感染症」が企業活動のリスクとして強く認識されている。
業務効率化やコミュニケーションの円滑化等の目的から、都心のオフィスビルに集約する企業は多い。一方で、BCP対応として、事業拠点の分散を図る企業もみられる。人材サービス業大手のパソナグループは、本社の管理機能を複数のオフィスに分散する取り組みを開始した。
今後、事業拠点の分散先として、郊外部に所在するサードプレイスオフィスの利用が増える可能性がある。
「周辺人口」から考えるサードプレイスオフィスの拠点開設エリア
以下では、潜在的な顧客数を示す「周辺人口」を確認し、サードプレイスオフィスの拠点開設エリアについて考えたい。
首都圏の「郊外」に所在する主なサードプレイスオフィスの「周辺人口(半径1キロ圏内)」の平均値は、(1)「人口46,376人」、(2)「生産年齢人口31,446人」、(3)「雇用者17,167人」、(4)「世帯数25,035世帯」となっている。
なお、一概に比較することはできないが、食品を中心にするスーパーマーケットで3万~3.5万人、ドラックストアで1万~1.5万人、小型コンビニで4,000~5000人の商圏人口が成立要件とされる。
首都圏「郊外」の全1,424駅について、「周辺人口」(半径1キロ圏内)が、サードプレイスオフィスの「周辺人口」(平均値)を上回った駅は、約3割の398駅( 東京都271駅・神奈川県68駅・千葉県37駅・埼玉県22駅)、このうち、駅1キロ圏内に拠点が未開設の駅は、156駅(東京都100駅・神奈川県27駅・千葉県21駅・埼玉県8駅)であった(図表4)。
東京都では城南および城北、多摩地区、神奈川県では横浜市および川崎市、千葉県では湾岸部等が、サードプレイスオフィスの潜在ニーズが確認できるものの、未開設のエリア(駅)が多いようだ。
コロナ禍以降、サードプレイスオフィスは、特に、郊外で「テレワーク」対応や拠点分散先としての利用ニーズが高まっている。他業種からサードプレイスオフィス事業への参入が増加し拠点開設も増えているが、「周辺人口」を勘案すると、依然として開設の余地は残されている。今後、サードプレイスオフィスは、郊外のオフィス市場に及ぼす影響が大きくなる可能性があり、その動向を注視したい。
吉田 資
ニッセイ基礎研究所
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