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精神疾患…「臨床心理士」の得意と不得意
医師は割り切って診断と薬物療法に専念し、時間のかかる精神療法は医師よりも人件費が安い臨床心理士に任せてしまうという選択もあり、実際多くの病院でこうした役割分担が行われているのが実情です。
もちろん、臨床心理士が精神疾患を抱える患者の援助に加わることは、コスト面だけでなく、治療においても効果が期待できます。
Aさん(※)の場合、臨床心理士による認知行動療法やマインドフルネス瞑想が取り入れられていました。
※ Aさん…コロナ禍の影響のなか、職場で前例のない対応を求められるうちにうつ状態となってしまった41歳・男性会社員。
担当医は薬物療法というフレームでしか患者を把握しようとしませんでしたが、臨床心理士が認知行動療法とマインドフルネスという医師とは別のフレームを活用しています。
フレームとは、対人援助者がもつボトルネックの把握や解消のために、患者を診る視点を指す言葉として私がよく使っているキーワードです。本来は画面とか額縁という意味ですが、同じ対象であってもどこをどう切り取って見るかで見え方がまったく異なってくるように、精神医療でもどのようなアプローチで患者を観察するかによってボトルネックが見えることもあれば、まったく分からないこともあります。
フレームをたくさんもっている対人援助職ほど患者の問題を把握しやすくなりますが、Aさんの担当医はうつ病という診断とそれに紐づいた薬物療法というフレームしかもっていないため、患者のボトルネックが薬で解決できるものでない場合には、治療成果につながらないのです。
そこに別のフレームをもっている臨床心理士が加われば、医師が一人で向き合うよりはボトルネックを発見しやすくなります。
しかし臨床心理士は、専門家といえどもすべての精神疾患や精神療法に精通しているわけではありません。
臨床心理士の多くは自分の専門分野を磨き上げることを重視しており、カバーする範囲を広げることに積極的な人は少数です。自分の専門分野で援助できる患者に対しては優れた対人援助スキルを発揮できますが、そうではない患者に対してはあまり機能しない場合が多いのです。