「アルコールを飲んでから寝ると」…うつが進行?医師に見落とされる可能性【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「寝つきを良くするためにアルコールを飲んでいる」という患者がいれば、精神科医・臨床心理士はうつ病の症状悪化を懸念して真っ先に介入しなければなりません。しかし、「5分診療」が主流となり、医師と臨床心理士の連携が進んでいない現状では、難しい実態があるようです。医療法人瑞枝会クリニック・院長の小椋哲氏が解説します。

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精神疾患…「臨床心理士」の得意と不得意

医師は割り切って診断と薬物療法に専念し、時間のかかる精神療法は医師よりも人件費が安い臨床心理士に任せてしまうという選択もあり、実際多くの病院でこうした役割分担が行われているのが実情です。

 

もちろん、臨床心理士が精神疾患を抱える患者の援助に加わることは、コスト面だけでなく、治療においても効果が期待できます。

 

Aさん(※)の場合、臨床心理士による認知行動療法やマインドフルネス瞑想が取り入れられていました。

 

※ Aさん…コロナ禍の影響のなか、職場で前例のない対応を求められるうちにうつ状態となってしまった41歳・男性会社員。

 

担当医は薬物療法というフレームでしか患者を把握しようとしませんでしたが、臨床心理士が認知行動療法とマインドフルネスという医師とは別のフレームを活用しています。

 

フレームとは、対人援助者がもつボトルネックの把握や解消のために、患者を診る視点を指す言葉として私がよく使っているキーワードです。本来は画面とか額縁という意味ですが、同じ対象であってもどこをどう切り取って見るかで見え方がまったく異なってくるように、精神医療でもどのようなアプローチで患者を観察するかによってボトルネックが見えることもあれば、まったく分からないこともあります。

 

フレームをたくさんもっている対人援助職ほど患者の問題を把握しやすくなりますが、Aさんの担当医はうつ病という診断とそれに紐づいた薬物療法というフレームしかもっていないため、患者のボトルネックが薬で解決できるものでない場合には、治療成果につながらないのです。

 

そこに別のフレームをもっている臨床心理士が加われば、医師が一人で向き合うよりはボトルネックを発見しやすくなります。

 

しかし臨床心理士は、専門家といえどもすべての精神疾患や精神療法に精通しているわけではありません。

 

臨床心理士の多くは自分の専門分野を磨き上げることを重視しており、カバーする範囲を広げることに積極的な人は少数です。自分の専門分野で援助できる患者に対しては優れた対人援助スキルを発揮できますが、そうではない患者に対してはあまり機能しない場合が多いのです。

医療法人瑞枝会クリニック 院長 精神科医

1968年生まれ、鳥取県出身。
2005年熊本大学医学部医学科を卒業後、2007年東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。
東京都立松沢病院、東京大学医学部附属病院(助教)、宇治おうばく病院などの勤務を経て、2015年瑞枝カウンセリングオフィスを開所。
瑞枝カウンセリングオフィスでの心理サービスを、精神科保険医療のなかでも展開するため、予約診療を自在に組み合わせた「瑞枝会モデル」を構築。
その実践の場として、2016年瑞枝クリニックを開業し、2018年医療法人瑞枝会クリニックに改組。
小学生時代に米国現地学校へ通い人種差別を経験。
中学では不登校となり児童精神科を受診、高校では精神的危機に陥り中退するなど、精神科ユーザーとしての苦しみに共感できる素地がある。

著者紹介

連載「精神科医が語る」医療現場の現実

※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

医師を疲弊させない!精神医療革命

医師を疲弊させない!精神医療革命

小椋 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

現在の精神医療は効率重視で、回転率を上げるために、5分程度の診療を行っている医師が多くいます。 一方で、高い志をもって最適な診療を実現しようとする医師は、診療報酬が追加できない“サービス診療"を行っています。 こ…

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