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”稼ぎ担当”医師と”ボランティア担当”医師の不公平
大学病院など多くの患者が詰めかける病院では、30分に5人の予約を取っているのが一般的です。実際には全員きっちり5~6分の診察を行うわけではなく、どうしても数分では終えられない患者には10分以上診察し、調子の良い患者やあまり時間をかけても成果が変わらないと考えられている患者は2~3分で診察し、帳尻を合わせています。
保険診療の枠組みでは、精神医療の外来収益の中心は、通院精神療法が担います。
この場合の保険点数は、5分以上30分未満の診察は330点、30分以上時間をかける診察では400点と、70点しか変わりません。現在の精神医療が破綻している保険制度上の原因はここにあると言っても過言ではありません。
初診の場合、とても5分10分では最低限のヒアリングをできないため、どの病院でも30分程度は診察時間をかけ、割に合わないながらも、400点を確保します。
再診の場合は、1時間あたりで見ると、5分の診察を12人の患者で回せば3960点の保険点数を確保できるのに対し、30分の診察であれば1時間に2人しか診ることができないため、800点しか確保できないことになります。経営の観点からは、前者で運営するほうが高収益となることは、火を見るより明らかです。
つらい症状を抱える患者と真摯に向き合い、適切な対人援助を提供しようとする医師が、そうではない医師に比べて得られる診療報酬が約5分の1という事態は健全とはいえません。
効率良く数分で診察を終える”稼ぎ担当”医師が大勢いる一方で、親身になって時間をかけて患者の話をよく聞くため、回転が悪い”ボランティア担当”医師もいます。
診察の早いタイプの医師が一定割合以上を占めていないことには経営が成り立たないため、診察に時間をかける医師に対して経営陣は「稼ぐように」というプレッシャーをかけざるを得ません。
また、診察の長いタイプの医師には、いわゆる”面倒な患者”や難治の患者ばかりが割り振られる傾向があります。”ボランティア担当”医師は、必死にそのような患者に寄り添う医療を実践しようとし、オーバーワークになってしまうのです。