開業するなら「半年分の生活資金」は必須だが…
「開業前に最低でも半年間分ぐらいは、売上がゼロでも生活できるよう生活費を貯めておいてください」
融資サポートのお申込みをされる方に、私がいつもそう申し上げるのは、決して大げさな話ではなく、現場で数多くの失敗事例を見聞きしてきたからこその助言です。
とはいえ、自力で開業資金以外の余剰資金を蓄えておくのは、よほどの資産家でない限り、なかなか難しいことかもしれません。自力で貯められないなら、どうするか。ここで出てくる選択肢が「借りる」という手段です。
しかし、とかくリスクを取ることについて及び腰になりがちな国民性もあるのでしょう。日本においては「お金を借りる」ことに関して、誤った常識、悪いイメージを抱いている方も多いようです。
そこで、まずは借金につきまとうありがちな誤解・イメージを取り上げ、解説します。
「借金=悪」という偏見
「借金なくして成功する会社」はほとんどない
小さい頃、親や学校の先生などから「借金はダメ」と教えられたような方も多いと思います。特に日本では、独立独歩で会社を立ち上げる人が諸外国より少ないこともあってか、「借金=悪」というイメージにとらわれる風潮が見られます。
さらに道徳的観点や倫理観からだけでなく、「なるべく借入はしない」ことを前提に、「無借金経営」を推進するような経営本の類いも見られます。
しかし、世のなかの数多ある会社、経営者を見ても分かるように、借入による投資なくして成功しているケースはほぼありません。例えば、孫正義社長率いるソフトバンクはなんと10兆円を超す有利子負債を抱え、「借金が多い会社」としても有名です。しかし、積極的に推進する海外M&A事業を見ても、決して“博打”感覚で無闇に借入や投資を実践しているわけでないことは明白です。
孫社長の例は極端としても、規模にかかわらず、企業活動とは「資金調達(借金)→投資→回収」のサイクルを上手に回していくことにほかなりません。
生存率が高いのは「負債が少ない会社」ではなく「現預金が多い会社」
もちろん、「自分一人の生活費程度を稼げればいい」ということであれば、自己資金の範囲内で事業を回していくことも可能です。
しかし、そうであっても、経営が不安定な創業初期は、手元資金を使い切ったところで、アテにしていた取引先が廃業に追い込まれ、売上がゼロになってしまう事態に追い込まれることがないとも限らないのです。
近年の世界情勢を見ても、例えばリーマンショック後やコロナ禍では、多くの会社で売上・利益が大きく落ち込みました。東日本大震災後も、自粛ムードで消費が一気に冷え込みました。自分に落ち度がなくても、未曽有の金融危機やテロなどの地政学的リスク、あるいは異常気象や天災など、事業を揺るがす不確定要素は年々、増加の一途をたどる状況にあります。
では、こうした緊急事態において借入がゼロで現預金100万円ある会社と、借入が500万円あっても現預金が600万円ある会社では、どちらのほうが存続する可能性は高いでしょうか。
答えは明白で、ハイパーインフレでも来ない限り現金の力は強く、現預金を潤沢にもっている後者の会社に軍配が上がります。
明日から売上がゼロになったとしても、そう簡単には潰れないための経営基盤をつくる屋台骨こそが現預金の蓄積であり、そのために借入は不可欠な企業活動の一つなのです。