(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業の多くが、創業から3年以内で廃業に追い込まれているという実態をご存じでしょうか。個人事業主の場合はさらにサイクルが早く、1年で約4割が店じまいに追い込まれているデータも…。なぜ、中小企業や個人事業主は廃業に追い込まれやすいのか。潰れないためにはどうすればよいのか。現場で数多くの失敗事例を見聞きした筆者が解説します。

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中小企業の半数が「起業からわずか数年」で倒産

会社生存率という言葉をご存じでしょうか。

 

これは会社が生存している率を示したもの。つまり、会社を立ち上げてから生き残る確率を示す数字になります。

 

では、日本の中小企業の“生存率”はどの程度なのでしょうか。

 

計算法や調査母体によっても、さまざまな数字が取り沙汰されていますが、中小企業庁のデータを参照すると、平均して1年で約3割、3~5年で4~6割が廃業に追い込まれるという実態が明らかにされています。

 

つまり、夢を抱き、相応の資金と時間をかけて事業を立ち上げたにもかかわらず、数年で約半分もの会社が倒産してしまうのです。先の中小企業庁の調査で、会社ではなく、個人事業主の場合はさらにサイクルが早く、1年で約4割が“店じまい”に追い込まれるというデータもあります。

 

しかも、新型コロナウイルスの影響について中小企業に聞いた調査によると、コロナ前よりも売上が減ったと回答した企業が全体の7割に達しています(「新型コロナウイルス感染症の影響下における中小企業の経営意識調査」2021年5月、東京商工リサーチ調査)。さらに、半数の企業が“採算赤字”と回答しており、中小企業は苦しい状況におかれているのです。

倒産理由No.1は資金ショート…創業初期ほどリスク大

なぜ中小企業や個人事業主が廃業に追い込まれやすいのでしょうか。

 

理由はさまざまですが、小規模な事業の場合は比較的シンプルで、突き詰めていくと原因は一つです。

 

お金がなくなると会社は潰れるのです。

 

つまり、会社の資金が底を突くと、事業が回らなくなる。多くの会社の倒産理由の筆頭に挙げられるのが資金ショートです。

 

資金ショートは、会社の成長ステージのどの段階でも起こり得るものですが、特に資金ショートのリスクが高いのが創業初期です。

 

飲食店を例にその背景について考えてみましょう。

 

店を開くには多くの資金が必要です。初期費用となる設備資金として、物件取得費から内外装費、厨房機器の費用などで1000万円程度かかるケースも少なくありません。多額の資金が一度に手元から出ていくわけです。

 

なんとか資金をやりくりして開業にこぎつけても、それ以降に必要となる運転資金や、家賃、商品の仕入代金、そして人を雇えば人件費が毎月必ず出ていきます。

 

もちろん、創業期から売上、利益が順調に上がれば問題ありません。しかし、株式会社東京商工リサーチの調査結果を取りまとめた中小企業の「原因別倒産状況」(中小企業庁)を見ると、直近11年の調査で一貫して倒産理由の1位に挙げられているのが「販売不振」です。つまり、多くの企業が創業当初は、想定より売上が上がらず、1~3年程度で廃業に追い込まれていくという構図が見えてきます。

創業後、黒字経営になるのは平均6~7ヵ月後

実際、私が携わってきた数多くの事例を見ても、最初から想定どおり、売上・利益が上げられるケースはまれです。業種にもよりますが、黒字転換には6~7ヵ月程度かかるというのが平均的数値です。

 

しかも、多くの方は開業に向けて「こんなオシャレな店にしたい」「スタッフがやりがいをもって仕事ができる環境を整備したい」などと夢ばかりがふくらみ、“ロマンとソロバン”のバランスに目がいかなくなってしまいます。コストがふくらむ一方で、売上の見通しを甘く立てがちです。

 

オープン当初であれば、遠方から友人がわざわざ来てくれたり、近所の人も物珍しさから立ち寄ったりしてくれる“ご祝儀相場”も期待できますが、実力が伴ったきちんとした差別化ポイント、戦略がない限り、すぐに客足は遠のいていきます。しかも、コロナ禍以降は非対面や非接触といった新しい営業様式が求められたり、飲食店などでは席数を減らすことも余儀なくされたり、売上やコストの試算はいっそう難しくなっています。経営者を取り巻く不確定要素は増加する一方で、これまで以上に戦略的な経営が求められているのです。

 

厳しい状況に陥ってから打てる手はそう多くありません。「このままではマズい」と、メニューや業態を見直すなどのテコ入れをしたいと思っても、資金の余裕がなければ新たな戦略を打つこともままなりません。客が来なければ、仕入れのロスも増えるばかりで、新たないい食材の仕入れもできなくなってしまいます。また、サービスや料理のレベルアップのためには、“数”をこなし、経験値を積むことも肝要ですが、閑古鳥が鳴いていては、それも実現できません。

 

まさに“貧すれば鈍する”で、「客が来ない→売上が上がらない→料理やサービスのレベルダウン→客足がさらに遠のく」という悪循環に陥ってしまいます。

 

一方で家賃などの運転資金、固定費は売上に関係なく毎月かかります。こうしてコスト負担ばかりがのしかかり、店を閉めざるを得なくなるわけです。

開業するなら、まず「半年分の生活費」を確保してから

ここでは飲食店の事例を挙げましたが、営業代行業のような元手ナシで始められるようなビジネスでも、コストは抑えられても集客ができなければ、事業は立ち回りません。美容室など既存顧客を引き継ぎやすい業種であったとしても、周到な準備をしていない限り、売上が順調に上がるまでにはやはり半年程度はかかるのが平均です。

 

時折、ネットに流布されるような成功話や開業セミナーなどで聞いたノウハウをうのみにし、「このとおりにやれば、絶対にうまくいきます!」などと自信満々で相談にみえるような方もいらっしゃいますが、ビジネスに“絶対”はありません。

 

半年ぐらいは赤字、生活費が入ってこない状況が続く可能性があるということを、覚悟するべきです。

 

「開業前に最低でも半年間分ぐらいは、売上がゼロでも生活できるよう生活費を貯めておいてください」

 

融資サポートのお申込みをされる方に、私がいつもそう申し上げるのは、決して大げさな話ではなく、現場で数多くの失敗事例を見聞きしてきたからこその助言なのです。

 

 

田原 広一
株式会社SoLabo 代表取締役 

 

 

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※本連載は、田原広一氏の著書『賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣

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田原 広一

幻冬舎メディアコンサルティング

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