首都圏新築マンションの動向-発売戸数は2019年の水準を回復、エリア別では供給・価格動向に相違 (写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年11月9日に公開したレポートを転載したものです。

4. なぜエリアによって差が生じたのか

(1)ターゲット層の世帯年収の減少している

 

エリア別の動向に差が生じた原因の一つに、コロナ禍の世帯年収への影響が考えられる。労働政策研究・研修機構の6月の調査によると、世帯年収(2020年)が低いほど、世帯生活の程度がコロナ禍前より「低下した(700万円以上」17.5%、「300万円未満」35.1%)」と回答している。また、現在の状況が「中の上」または「中の中」である人は「今後の状況は変わらない」と答えた人が半数を超えたのに対し、「中の下」では「今後は悪化する」と答えた人が半数を超えた。コロナ禍では、世帯年収が低い層ほど収入が減少し、その影響も続く傾向があるようだ。

 

住宅購入にあたっては、住宅ローンを利用する人が多いが、住宅ローンの借入可能額からそのエリアの需要者がどの世帯年収層をターゲットにしているのかがわかる。元利均等返済の借入可能額は次の2式で概算できる。

 

 

ローン審査において、ローン返済に充当できるのは年収の30%程度であり、他の借入がなく、借入条件を(1)金利は1%、(2)返済期間は35年と設定すると、借入可能額は、世帯年収500万円の場合は4,420万円と「千葉県」の新築マンションの現在の価格に近く、同様に1,000万円の場合は8,850万円と東京23区の現在の新築マンションの価格に近い[図表5]。

 

[図表5]世帯年収から算出した借入可能額(元利均等返済、返済負担率30%)
[図表5]世帯年収から算出した借入可能額(元利均等返済、返済負担率30%)

 

また、2021年に購入をする人の借入可能額は、前年の年収である2020年の年収から算出される。労働政策研究・研修機構によると、就労者の収入のうち、2020年4月から12月の「きまって支給される給与」は前年同月比で平均▲1.1%(最大値▲2.0%)、「時間外手当など」は平均▲15.3%(最大値▲26.4%)、「ボーナスなど」は平均▲4.9%(最大値▲12.8%)で推移しており、特に時間外手当とボーナスの減少が大きい[図表6]。世帯年収500万円から600万円程度の層の時間外手当やボーナスの減少が、価格水準が4000万円半ばのエリアの価格を停滞させていると推定される。

 

[図表6]新築マンション発売戸数(前年比)
[図表6]新築マンション発売戸数(前年比)

 

さらに、2022年に購入をする人の借入可能額は、2021年の年収から算出される。2021年1月から8月は「時間外手当など」は前年比平均+5.0%(最大値▲9.1%)、「ボーナスなど」は前年比平均▲0.5%(最大値▲20.3%)と2019年の水準には戻っておらず、一般的にボーナスの支給水準は急な回復は見込めない。今年の価格動向が下落となっているエリアについては、来年も価格と売行きが停滞する可能性があるのではないだろうか。

 

(2)エリアの特徴によって、ニーズの変化から受ける影響の大きさは違う

 

マンション購入希望者のニーズの変化の不動産価格への影響の大きさは、エリアの特徴によって異なる。

 

例えば、マンション購入希望者において「東京都心部への利便性」が重視されるようになったとすれば、電車通勤時間の短い住宅の価格が高くなると考えられる。図表3と4のエリアは概ね「都県庁の所在市区」と「その他」に分けられているが、「都県庁の所在市区」であってもエリアの特徴は一様ではない。東京駅からの距離を比べると、「埼玉県さいたま市(浦和駅)」は最短約25分、「神奈川県横浜市(関内駅)」は最短約35分に対し、「千葉県千葉市(千葉中央駅)」は最短約50分とやや距離がある。また、「千葉県その他」には、浦和市、船橋市などの、マンション適地になりやすく、千葉市より東京に近いエリアも含まれ、一概に県庁所在地でないから競争力が劣るとは言えない。

 

今後は、コロナ禍後の生活が徐々に意識されるようになると思われるが、「首都圏」という大枠だけでなく、このような変化に応じて細分化されたエリアごとに動向を見る必要があるだろう。

 

ニッセイ基礎研究所 金融研究部准主任研究員

2000年東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行2006年。総合不動産会社に入社。2018年5月より現職

・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員

著者紹介

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