日本における「人気職業」は、欧米だと「最悪の仕事」
図表1はアメリカの求人サイトであるCareerCastがアメリカ政府の雇用データをもとにまとめた「最悪の仕事」のランキングです。このランキングは、「酷い報酬」「ストレス」「ジョブセキュリティ」などをもとにまとめられていますが、日本の「人気企業ランキング」とは随分内容が違います。
まず、日本ではエリートの仕事であり、憧れの仕事の一つである新聞記者は、低い報酬、仕事の不安定性、ストレス、成長性などの観点から見て、現在アメリカで最悪とされる仕事の一つです。『The Jobs Rated Almanac: The Best Jobs and How to Get Them』(iFocus Books)で取り上げられている200の仕事の中でも最下位です。
この傾向は、アメリカだけではなく、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏でもまったく同じです。英文メディアの世界では、新聞社の倒産、合併、縮小に伴って、記者のレイオフが増えています。英語圏は大胆なので、一気に記者を数百名単位でクビにしたり、写真報道部署の仕事をすべて海外に外注したりしてしまいます。
例えば、アメリカの主要大衆紙である「USA Today」の親会社であるGannettは、2013年には同社が所有する新聞社の中から合計で200名あまりを解雇し、翌年は「USA Today」のベテラン記者や編集者約70名を解雇しています(※1)。
2013年にはイギリスの経済高級紙であるFT「Financial Times」が35名の編集スタッフを解雇し、デジタル編集者に置き換えることを発表しています(※2)。
イギリスの保守系新聞である「Daily Telegraph」も、2014年にデジタル部門の編集者約50名を解雇しています(※3)。
※1 http://www.huffingtonpost.com/2014/09/03/usa-today-layoffs-job-cuts-gannett_n_5760196.html
※2 http://www.pressgazette.co.uk/ft-avoids-compulsory-redundancies-30-journalists-leave
※3 http://www.theguardian.com/media/greenslade/2014/oct/21/telegraphmediagroup-national-newspapers
インターネットの発達がもたらした出版業界の「悲惨」
さらに、新聞記者と同じく、なんと日本では皆のあこがれであるニュースキャスターやDJも危険職種とされていますが、これも新聞記者と同じく、インターネットの発達によりメディアの消費方法が変化していることが原因です。
アメリカの調査会社であるPew Research Centerの調査によれば、2000年と2012年を比較すると、アメリカのメディアにおける写真記者やビデオ記者の仕事は43%減少し、編集者やコーディネーターやレイアウト担当者は27%、記者や編集者は32%も減少しています(※4)。
記者の多くは、運が良ければデジタルメディアに転職したり、企業の広報に転職したりしますが、廃業後に失業してしまう人もいます。このような悲惨な状況は、新聞だけではなく、書籍や雑誌を出版する出版社も同様で、紙の媒体の需要が激減しているので、デジタルメディアに転職する人が増えています。
私はロンドンで開催される、出版業界の大規模展示会である「The London Book Fair」を毎年取材していますが、15年近く前からデジタルで出版するのが当たり前、という雰囲気であり、もはや展示ブースには紙の本を置いていない出版社も珍しくありません。
大盛況で立ち見が出るセミナーは、電子書籍を売る方法、小規模出版社がデジタルメディアで生き残る方法、Kindleで売れている本のトレンド、映画製作とのコラボレーションなど、そのほとんどが、デジタルメディアに関するものです。
業界を代表する書評家としてセミナーで話をするのは、今や、有名な作家や書評家などではなく、Booktuber(動画サイトYouTubeで書評動画を発表している人)やブロガーです。デジタルメディアを制する「素人」の方が、年配の業界人よりも影響が強いのです。
※4 http://www.pewresearch.org/fact-tank/2013/11/11/at-newspapers-photographers-feel-the-brunt-ofjob-cuts/