大企業への貸し出しが不良債権化するリスク
足元FRB(米国の中央銀行にあたる、米連邦準備銀行)やECB(ヨーロッパ中央銀行)、そして日本銀行(日本の中央銀行)や他国の多くの中央銀行が行っている量的緩和政策(金利引き下げ以外に、国債、社債や株などを購入する政策)により金融市場にカネ余りの状態が起こっていることから、先進国の金利はほぼゼロかマイナス圏で推移しており、コロナ禍で米国債金利も低下し、実質金利(名目金利からインフレ分を控除)もマイナスとなっており、米国債券投資は実質“損する”という状態に陥っています。
加えてコロナショックを契機に、社債購入に関してもFRBが投資適格債(格付けがトリプルB以上の投資適格と考えられる社債)はもとより、2020年3月22日以降に投資不適格(格付けがトリプルB以下)に格下げされた社債の場合でも、一定の条件を満たせば買い入れ対象と方針を変更しました。
欧州も同様に、民間・公的部門から債券を7500億ユーロ買い入れ、4月7日以降に投資不適格に格下げされた銘柄も適格担保として認めました。結果として、高リスクな社債と安全資産の国債の金利差(所謂リスクプレミアム)もなくなっているような状況もありました。
このように経済・金融危機を通じて、中央銀行の対応が従来の短期金利操作による金融システムの安定にとどまらず、長期金利のコントロールや国債など資産購入、またリスク資産購入といった、更なる進化を遂げている、ということはご理解いただけたかと思います。
では、今後どうなるのでしょうか? 金融商品としては、高利回りのハイブリッド債やローン担保証券(CLO)、またオルタナティブ投資(ヘッジファンド、実物不動産、プライベート投資や農地投資等)が人気となり、多くの資金が流れていくものの、問題は資金流入があることで、高利回り・高リターンであった金融商品のリターン低下へと繋がり、資金がさらにもっと高リスクの投資商品へ流れていく、という仕組みを促しているのではないか、という点です。
要するに、中央銀行の緩和政策が継続する限り、中毒性のある投資行動を促し続けている、ともいえるわけですが、そのような行動を理解することが、この本の趣旨でもあります。
そして、未知の領域に達している金融政策において、金利の運用、もしくは貸出利息を商売にしている銀行や生命保険会社への影響はどうでしょうか? 日本の銀行に関しては、メガ銀行三行のなかで、MUFGグループとSMBCグループが収益額ではリードしているものの、やはり難あり、であるようです。
『国内業務。生産年齢人口の減少という構造問題に加え、日銀のマイナス金利政策が続く中、国内貸し出しが大きく細る懸念は消えない。国内でなお主力の大企業向けの貸し出しも、新型コロナの影響が長期化すれば、不良債権の山へと一変するリスクが潜む』
話は少し変わりますが、2020年5月19日にソニーグループが、ソニーフィナンシャルを完全子会社化(65%から100%)へ向けてTOB(株式公開買い付け)を発表しました。このアクションにより、安定した収益を出している金融部門をソニーグループ全体に取り込む、という意図が元々あるといわれていますが、同時に低金利を背景に、ソニー生命の終身保険の保険負債リスクが大きくみられている、とも言われています。
『終身保険は顧客のお金を預かり債券を中心に運用して顧客の死亡にあわせて保険金を支払うが、契約期間が長くなればなるほど、金利変動のリスク管理が難しくなる。低金利が長引き、大手生保が徐々に終身保険から年限の短い医療保険などに営業の軸足を移す一方で、ソニー生命は根強い需要を集めてきた。その結果、明確なデータは公表していないが「ソニー生命の抱える保険負債のデュレーション(残存期間)は40年程度でライバルと比べても長くなっている」…とされる。この数年、世界的な低金利で債券運用の環境が厳しくなり、長期の保険負債はリスク要因とみなされるようになっていた。』
日銀の政策に導かれた著しい金利低下(マイナス金利を含む)は本来の民間銀行業務にとっては、ボディーブローのように影響が積みあがっていき、結果として短期的にではないものの、長期的な収益の悪化、経営体力の弱体化へと繋がっている、と考えています。同時にこのゼロ金利環境と社会全体の高齢化は、保険会社が以前高い収益を出していた終身保険の負債リスクを実は増長、悪化させている、ともいえるでしょうし、資産側では運用先にもさらに困ってしまう、という事態になっています。