(※写真はイメージです/PIXTA)

米中の対立が貿易や技術から金融市場にまで及んできました。アメリカが新規上場ルールの厳格化に乗り出す一方で、中国政府は海外上場の規制強化を打ち出してきました。米中対立は制御できるかわからないまま、危うさを増しています。※本連載は、後藤康之氏の著書『最強の外資系資産運用術』(日本橋出版、2021年4月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

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米中対立が金融市場に及んできた

米中対立において争点となっている業種をピックアップし、解説していきます。

 

■金融

 

米中対立のもう1つの火種は、2014年9月に上場したアリババのような、多くの中国企業が目指していた米国市場(NYSENASDAQ)での上場制限案であります。下記ニュース(2020年5月20日)に詳細が書かれております。

 

『米取引所大手ナスダックは新規上場ルールの厳格化に乗り出す。海外企業は新規株式公開(IPO)時に、最低でも2500万ドル(約26億円)、または時価総額の25%相当の金額を投資家から調達するよう義務付ける。監査状況についても新たな審査基準を設ける。……

 

ナスダックは上場ルール変更案の中で、制限の対象として中国企業を名指ししていない。ただ、ナスダック上場を目指す海外企業の多くは中国資本で、資金調達額が小さく、流動性に乏しい銘柄も目立つ。新ルール適用によって中国企業が最も影響を受ける。……

 

ナスダックは上場申請企業の監査状況をより厳しく審査する方針だ。SECや上場企業会計監視委員会(PCAOB)の調査に制限がかかっている国・地域の企業を対象にする。PCAOBは上場企業の会計監査を担当する監査法人を定期的に調査し、財務諸表の質を担保しようとしている。一方、中国政府は米当局による自国監査法人への調査を認めていない。監査を巡るナスダックの新上場ルールも事実上、中国を念頭に置いたものになっている。』

 

SECとPCAOBによる指摘自体は様々な形で以前からありました。

 

2020年になり米中対立も深まる中、この規制案導入へきっかけを与えてしまったのが、2019年12月期の売上を不正会計(売上の水増し)にてNASDAQから上場廃止通告を受けた、中国カフェチェーンの瑞幸珈啡(ラッキン・コーヒー)であります。同社のCEOとCOOは不正会計を理由に解任された、そうです。

 

また2020年7月31日に中国財政省の監督評価局が同社の不正会計事件について調査結果を公表し、2019年4月から12月末までに、同社が架空の商品券の取引により売上を21億1900万元(約318億円)水増ししており、これは同社の同期間の売上51億5000万元(約773億円)の4割強に相当するそうです。そして架空経費12億1100万元(約182億円)も計上し、純利益を9億800万元(約136億円)実際より多く報告していたようです。

 

米政府(トランプ政権)による対中政策という中で、『中国証券監督管理委員会(証監会)と中国財政省がアメリカの上場企業の監査法人を監督する公開会社会計監査委員会(PCAOB)と2013年に結んだ「覚書」を、トランプ政権が一方的に破棄する方針』という考えのようで、中国企業の米市場での上場されている250社全部が上場廃止のともいわれています。

 

またこれに加えて2020年7月の香港での国家安全法への対抗措置として、トランプ大統領が同年7月15日に署名した『香港自治法』に盛り込まれた2段階の経済制裁の第二段階に、中国共産党・最高指導部の韓正副首相(香港担当)らを含む、香港の自由や自治を侵害したと見なされる個人や団体と取引がある金融機関も対象としています。

 

具体的には(1)米銀による融資の禁止(2)外貨取引の禁止(3)貿易決済の禁止(4)米国内の資産凍結(5)米国からの投融資の制限(6)米国からの物品輸出の制限――など8項目が入っており、制裁発動までに1年という時間的な猶予を金融機関に与えております。

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