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意思決定プロセスの「6つのステップ」
本稿では、患者の受診先選択や治療の選択に関する意思決定について、患者インサイトを探る。
■人の判断と思考スタイル
意思決定とは、人が目標を達成するために、複数の選択可能な代替案の中から、最適な解を求めて選ぶことであり、人間の認知的な行為である。人はいつでもありとあらゆる場面で選択している。より良い選択とは何か、最良の結果を導くためには、どう判断することがよいのか、考えながら生活している。その意思決定は、意識的に行うこともあれば、無意識な時もある。
例えば、患者は、からだに異変が起きた時、自分のからだに何が起こっているのか、この身体的状況はこのまま放置して大丈夫なのか、医師に診てもらうべきか?病気だとしたら、何の病気なのか、どこの病院や診療所で診てもらうことが最善なのか、いついくべきか?など、色々なことが次々と頭に浮かび、判断して選択する。
この意思決定には、思考の癖がある。医療従事者は、その患者の思考の癖を見極めて、患者がよい選択をできるよう、患者が望む結果が得られるよう、導く必要がある。
判断とは、意思決定プロセスの認知的側面を示す用語である。意思決定プロセスには、6つのステップがある(長瀬,2011)。
・第1ステップは、問題を定義する。ただし、この解くべき問題を完全に理解しないままに行動に移すこともある。問題を特定し、定義するためには、正確な判断が求められる。
・第2ステップでは、選択肢を評価するための複数の基準を設定する。たいていの意思決定では、複数の目標達成が求められる。例えば、受診先選択においては、①最善で、②最新の治療を、③家の近くで、④安価に(日本は、診療報酬制度により価格が決まっているが、高い治療でないように考える)、⑤自分の都合に合った時間に受診したい、などを考えた場合、5つの基準が設定される。
・第3ステップは、第2ステップで決めた各基準に重み付けをほどこす。例えば、先ほどの5つの基準において、重要性を自分の価値により採点する。
・第4ステップでは、複数の選択肢を生成する。取り得る行動の選択肢に何があるのかを特定する。
・第5ステップは、各選択肢を各基準の観点から評価する。合理的に考える場合は、もたらす結果を、事前に設定した基準に照らし合わせて、慎重に予測する。
・第6ステップは、最善の選択肢を算出する。ここでようやく、選択肢を選び取る。
ただし、人間は判断を下す時、このような論理的な手続きに従っているかというと、たいていは違っている(長瀬,2011)。
Kahneman and Frederick(2002)は、意思決定プロセスの代表的理論である二系統の思考スタイルについて、非合理的なシステム1は直観的(Intuitive)であり、合理的なシステム2は熟考的(Reflective)であることを示している。この直観的思考は経験則的であり、感情的な情報処理が行われる。一方、熟考的思考は分析的、規範的であり、論理的な情報処理が行われる。