直観的思考と熟考的思考は使い分けている
二系統の思考スタイルの特徴を示す(Kahneman, 2011)。
・直観的思考(Kahneman はシステム1と表記)は、非合理的な思考であり、自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分の方からコントロールしている感覚は一切ない。
・熟考的思考(Kahneman はシステム2と表記)は、合理的な思考であり、複雑な計算など、頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。働きは、代理、選択、集中などの主観的経験と関連づけられることが多い。
この2つのシステムは、相互作用により使い分けられている。通常は、直観的思考で判断しているが、困難に遭遇すると、熟考的思考により、問題解決に役立つ緻密で的確な処理が行われる。熟考的思考が動員される時は、直観的思考で答を出せないような問題が発生した時である。熟考的思考は、注意を喚起し、記憶を探索して、答えを見つけようとする。そして、困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる(Kahneman, 2011)。
例えば、普段の生活において体調に問題がない時は、からだについて気にすることはないため、直観的思考で身体状況を捉えている。しかし、どこか具合が悪くなった場合、病気を疑うことになる。その際、一般的に症状から病気を判断することはできず、熟考的思考をフル回転させ、身体的な情報を感じ取り、病気に関する情報を収集して、どうするべきか、意思決定を行う。
Kahneman(2011)によると、人は誰でもほとんどの場合に直観的思考の印象に導かれて生活しており、その印象がどこから来るのか知らないことが多い。そして、印象や直観のもとになっている情報の質にはひどく無頓着である。情報は少ない方がつじつま合わせをしやすいので、情報の量と質は、ほとんど顧慮されない。
しかも、直観的思考には第一印象を重視するバイアスがある。印象、感覚、傾向を形成し、感情的な印象ですべてを評価しようとする。手元の情報だけを重視し、手元にないものを無視する。そのため、限られた手元情報に基づいて結論に飛びつく傾向は、直観的思考の特徴である。直観的思考は、人生で信じているただ愛する人や信頼する人がそう信じている、ということだけが拠りどころになっているという。
人間が様々な情報処理を自動的に行うことについて、消費者が商品を選択する行動は、大部分が自動化されており(友野,2006)、直観的思考で選択している。判断においては、メディアや親しい友人、家族、権威(がありそうな)者などからもたらされた情報、自分の感情に強く訴えかける出来事や情報などは印象に残りやすく、情報の信ぴょう性や出来事が生じる確率は高いと判断される(友野,2006)。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長