(※写真はイメージです/PIXTA)

米中の対立が貿易や技術から金融市場にまで及んできました。アメリカが新規上場ルールの厳格化に乗り出す一方で、中国政府は海外上場の規制強化を打ち出してきました。米中対立は制御できるかわからないまま、危うさを増しています。※本連載は、後藤康之氏の著書『最強の外資系資産運用術』(日本橋出版、2021年4月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

中国は米国株式市場で資金調達が困難に

現段階で対象を中国の金融機関に限っていないものの、この脈絡から中国銀行(BOC)や中国工商銀行(CIBC)、中国建設銀(CCB)など中国国有5大銀行も、将来的に米国からの経済制裁により米ドルへのアクセスができなくなる可能性も出てきているわけです。

 

上記状況を加味し、中国企業や金融機関が今後の米国や米国株式市場での資金調達が困難になっていくのは想像に難くない、というのはご理解いただけるかと思います。

 

また同時に、中国政府が国内から国外への外貨規制を敷いている中で、中国企業のIPO等を通じて外貨調達、またその調達の際の手数料などで、一定程度の経済的恩恵を受けていた米国の投資銀行(2020年1ー8月の中国企業上場からの手数料収入は6億米ドル以上、とのこと)や投資ファンドにとっても、この状況は必ずしも良いニュースではないでしょう。

 

この状況下でも、中国側も手をこまねいているわけではありません。コロナ禍における景気回復も含めて、中国の省や市などの地方政府が支援する投資会社が、インフラ投資用に中国国内で負債による資金調達(且つ規模も1000兆円)を行っている、そうです。この借入の方法は、以前問題となりかけた、

 

中国国内のシャドーバンキング(影の銀行)は、同国の信託銀行が高利回りの信託商品を組成し、多くの金額を募集(約320兆円に膨らんだ、との予測もあり)、高利貸ししていた、というとは少し意味合いが違うかと思います。

 

しかし地方政府の支援がみえるものの、日本のGDP2年分相当の約1000兆円という規模は計り知れない、と思いますし、シャドーバンキングも今後デフォルト等が危ぶまれている中、同国の金融システムに大きな衝撃を与える可能性があると考えます。

 

また株式での資金調達で報道されている件として、アリババ傘下のアント・グループは上海と香港での新規上場(IPO)を目指し、2020年8月25日に上場申請をしました。アント・グループはスマートフォン決済「支付宝(アリペイ)」や、個人の信用評価システム「芝麻信用」などを運用し、アリペイのユーザー数は世界で12億人以上とも言われ、この度の上場の時期や調達金額などはまだ明記されていないようですが、上場前の試算された企業価値は1500億ドル(16兆円)規模と見られていました。

 

ちなみに日本最大のトヨタ自動車は2020年7月21日時点ですと、時価総額22兆円であり、純負債額(負債合計から現金相当分を控除、2020年3月現在)の23兆円を足すと、理論上は企業価値約45兆円になり、アント・グループ3つ分で説明がつく、という理屈になります。

 

しかし物事はそんな一筋縄ではないのが、この米中対立の難しいところであり、且つ金融はそれを象徴している部分もあります。具体的な一例としては、所謂Pre-IPOと言われる新規上場前の段階で多くの米国年金投資家や外国政府の運営するSWF(ソブリンウェルスファンド)などが中国企業に既に投資しており、投資家の資産成長を支えたのでは、と言われています。

 

たとえば、著名な投資ファンドである、SilverLake、WarburgPincus およびCarlyleGroup は、2018年に行われた旧アントファイナンシャル(現・アントグループ)社のPre-IPOラウンドで大量の資金を投資しており、同社にそれぞれ少なくとも5億ドルを投資したといわれています。

 

また同社は2018年に他にもシンガポールのGIC、KhazanahNasionalBerhad、CanadaPensionPlanInvestmentBoard、TemasekHoldings など著名なSWFからも資金調達しており、同年で合計約140億ドルを調達した、そうです。

 

またアント・グループ社のIPO価格にもよりますが、高い評価額で上場した際には、投資ファンド側にとっては高いリターンで換金できる可能性が出てきます。

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最強の外資系資産運用術

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後藤 康之

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