医療保険制度によって患者の行動は違う
Dimatteo et al.(1979)は、ニューヨーク市のコミュニティ教育病院の外来患者164名、入院患者178 名へのドクターショッピングに関するインタビュー調査を実施した。ドクターショッピングの理由は、「不十分な治療」「患者が医師に嫌われたと感じた場合」が挙げられた。
「治療に費やされた時間の多さに不満がある」「患者に対して医師が興味を示していないと感じる」などのケースでも、ドクターショッピング行動をおこしていた。患者に継続受診をしてもらうための重要な要素は、「患者を気に掛ける医師の気持ち」「医師が患者と関わった時間」「説明と傾聴」「必要な時にアクセスできること」であり、「医師が患者の病状に関する情報を提供する」ことも重要な要素であることが示された。
Andylim et al.(2018)は、マレーシアのケバングサン大学付属病院の皮膚科において、女性58 名と男性46名(合計104名)の患者サンプルでドクターショッピングの実証研究を行った。その結果、40.4%がドクターショッピング経験者であった。要因として、「治癒、改善の欠如」「病気の悪化」「治療に対する不満」「患者が治療の選択肢を探りあてるための医師による診断に関するカウンセリングの不足」が明らかになった。
ドクターショッピング行動の要因は、第1に、治療結果への不満が影響を与えていた、第2に、「医師と患者の不十分な人間関係」が大きく、「医師の説明を理解できない」「診断に関するカウンセリングの不足」などが報告された。物理的な問題は、「長い待ち時間」「治療に費やされた時間」「医療施設の距離」があげられた。本質的な問題は、「治癒、改善の欠如や悪化」「診断や治療に対する不満」「病気の慢性化」であった。
継続受診の要素は、「医師と患者の良好な関係の維持」「医師による好意的な態度」「患者を気に掛ける医師の気持ち」「説明と傾聴」「医師が患者と関わった時間」「病状に関する情報の提供」であった。
なお、これらはすべて大学病院を対象としたものであり、診療所とは異なる可能性があるものの、治療結果などの本質的な問題、医師との関係性や医師の患者に対する態度、わかりやすい説明、病状に関する情報提供など、医師と患者との関係や本質的な問題は、診療所においても同様に継続受診の重要な要因であることが推測できる。また、診療所の場合は、自宅からの近さなどの利便性も重要視されることが考えられる。
今回、日本、米国、マレーシアの研究を報告しているが、医療保険制度により行動は異なるため、各国の医療保険制度について参考までに概略を示す。
英国では保険制度により、基本的にはドクターショッピング行動は行われない。英国では、国民保健サービス(NHS:National Health Service)によって、すべての住民に疾病予防やリハビリテーションを含めた包括的な医療サービスが主として税財源により原則無料で提供されている。国民は救急医療の場合を除き、あらかじめ登録した一般家庭医(GP:General Practitioner)の診察を受けたうえで必要に応じ、GP の紹介により病院の専門医を受診する仕組みとなっている(厚生労働省,2013)。
マレーシアの場合、医療における公的医療保険はないものの、政府の支出によりわずかな自己負担で公立病院・診療所を受診することが可能となっている(厚生労働省,2013)。
米国の場合は私的な保険に加入しているものの、医療費は高額であり、すべての治療が保険でカバーできるわけではない。高額な治療や薬は保険適用にならないことも多々ある。そのためかKasteler et al.(1976)の研究では、ドクターショッピング行動の要因として、コストが挙げられている。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長