安易な「他のお医者さんに診てもらおう…」が招く恐ろしい事態 (※画像はイメージです/PIXTA)

ドクターショッピングは、患者にとって、より良い治療選択を探る点でメリットがあります。一方、スイッチングによる治療の中断、検査のやり直しによるコスト面の負担などのデメリットもあります。医療経営の視点に立つと、患者が定着しない問題を引き起こします。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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なぜ「ドクターショッピング」が起こるのか

受診先を変えるドクターショッピング行動は、様々な問題を引き起こす。患者の定着による経営の安定を図るためには、ドクターショッピング行動に関する患者インサイトを探る必要がある。

 

■ドクターショッピング行動の背景と問題

 

医療マーケティングの重要な課題の1つに、患者が医師や医療機関を自己都合でスイッチする、ドクターショッピング行動が挙げられる。この解決策である、継続受診行動を高めることは、患者の定着率を向上させ、経営の安定化を図ることにつながる。継続受診行動を促す方法を探り当てるためには、ドクターショッピング行動の理解が重要である。

 

ドクターショッピング行動と継続受診行動の関係を(図1)に示す。ドクターショッピング行動の背景は複雑であり、第1に慢性疾患患者の増加、第2に診療所の増加による競争の激化、第3に患者の期待不一致、第4に医療保険制度での皆保険制度による患者のモラルハザードとフリーアクセス制が考えられる。

 

出所:杉本(2019)。
【図1】ドクターショッピング行動と継続受診行動の関係 出所:杉本(2019)。

 

(1)ドクターショッピング行動の背景

●第1に慢性疾患患者の増加について

 

生活習慣病を含めた慢性疾患は、いまや多くの国民が経験する身近な病気であり、死亡数割合は約6割を占めている。慢性疾患は、定期的な医療管理が必要であるため患者は継続受診が必要なものの、病状の改善が認識できない場合、受診先を変えて治療法が変われば症状の改善が見込めるのではないかと期待して医師をスイッチする。

 

●第2の診療所の増加と第3の患者の期待不一致について

 

診療所の増加は患者による受診先の選択肢の幅を広げ、利便性を高めることにつながるが、一方では、医療機関の競争が激化している。

 

日本の医療機関は、2017年度において17万8,492施設あり、対前年比419施設が減少している。その内、病院は8,412施設で前年に比べ27施設減少している。一般診療所も全体では、対前年比で58施設が減少している。

 

しかしながら、無床診療所は増加し続けており、単年度で369施設が増加している。2008年から比べると6,686施設が増加しており、入院施設を持たない、外来診療のみの無床診療所の市場が成長している(厚生労働省保健統計室,2019a)。

 

以前は医療機関に対して、仮に不満があった場合でも、患者はそのまま受診するケースが多かった。しかし、現在では地域差はあるものの、治療、治療方法や結果、対応等に納得がいかない場合、患者は医療機関(医師)をスイッチする。

 

例えば、前述した不妊治療や季節性アレルギー性鼻炎の場合、期待どおりの治療や投薬、患者が望む治療結果が得られないケースがあり、患者は情報の非対称性による情報不足もあり、過度な期待による不一致を起こし、結果として医師をスイッチすることが推測できる。この情報の非対称性とは、患者と医療者の持つ情報の格差を指しており、医学的な専門知識の場合は両者に大きな格差があることから、治療や意思決定、結果に対する認識が異なることを示す(島津,2005)。

 

●第4①日本においては医療保険制度もドクターショッピング行動に影響している

 

①皆保険制度による患者のモラルハザードと②フリーアクセス制は、ドクターショッピング行動の背景として考えられる。

 

①皆保険制度による患者のモラルハザードについて、大森(2003)は、患者は病気になった場合に保険が利くことから、費用の低い医療サービスを選ぶインセンティブを失う。同じ疾病で複数の医療機関を受診する、または、医師をスイッチして再検査や治療を行うなどのドクターショッピング行動は、その一例であることを指摘している。

 

②どこの医療機関にでも受診が可能なフリーアクセス制について、我が国では国民の社会保障の充実という観点から、「誰でもいつでもどこでも一定水準の医療サービスを受けられる仕組み」を目指し、国民は医療へのフリーアクセスの権利が確保された。患者の立場で考えると、医療機関へのフリーアクセス制は利便性が高い。

 

しかし、同一の病気で複数の医療機関を受診したり、治療を中断して他の医療機関を受診したりするドクターショッピング行動がおき、非効率を生み出している。さらに、現在では厚生労働省により対策が取られているが、患者の大規模病院志向による高度な医療機関への一極集中を引き起こす(医療経営人材育成事業ワーキンググループ,2006)(図1)。

 

●第4②モラルハザードの問題

 

ドクターショッピング行動の背景では、患者のモラルハザードが問題視されるが、モラルハザードは患者だけではなく、医療機関側にも存在する。これは医療サービスにおけるプリンシパル・エージェント問題として指摘されている。

 

クライアントである患者(プリンシパル)と医師(エージェント)の間では、医師がクライアントに対してエージェントの機能を果たさない関係を指す(吉田,2004)。

 

例えば、医療機関が診療報酬を増やして収入を多く得るため検査や投薬を必要以上に行うことはその一例である。患者は治療法に対して、自分のためではなく医療機関や医師の利益のために検査を多くし、薬を多くしているのではないかと疑問を持った場合、医師への信頼をなくし転院するケースが報告されている。

跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長

中央大学大学院戦略経営研究科修士課程(MBA)を首席で修了、同大学院同研究科博士課程にて博士(経営管理)取得。医療福祉専門学校の学校長を経て現職。医師会・医療機関・製薬会社等で講演活動を行う。専門は医療マーケティング論、マーケティング論、企業マネジメント論など。

著者紹介

連載「患者インサイト」患者の深層心理がわかれば医療現場が変わる

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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