ドル高・円安の是非…「安いニッポン」への批判が的外れなワケ (写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2021年10月19日に公開したレポートを転載したものです。

「安価で高品質な日本」インバウンドに大いなる期待

極端な割安さ、日本のサービス価格

「安いニッポン」はことに、日本の内需産業、サービス価格で顕著であり、外国人から見た日本観光のコストパフォーマンスは非常に高いとみられる。

 

内外価格差つまり日本と米国との物価の格差を比較すると、自動車、衣料品、玩具、テレビパソコンなどのエレクトロニクス製品等、グローバル製造業製品の価格はほぼ同一である。

 

内外格差はもっぱら国内のサービス価格の差である。日米でスマホや車の値段はあまり変わらないのに、レストランの価格や交通料金、医療費、教育費などのサービス価格において極端な価格差が存在している。

 

ラーメン一杯東京500円、ニューヨーク2000円などと巷間で語られる価格差が存在している[図表13]。

 

なぜ内需型のサービス価格においてそれほどの格差があるのかと言えば、日本の割安な内需型サービスを外国人が買うことはできず、日本の内需価格の割安さが是正されてこなかったからである。

 

[図表13]日米の品目別物価推移 (出所:出所:米労働省、総務省、ブルームバーグ、武者リサーチ)
[図表13]日米の品目別物価推移
(出所:米労働省、総務省、ブルームバーグ、武者リサーチ)

 

外国人は知っている「日本ほど安く安全、美味しいところはない」

しかし国境を越えた観光の隆盛により日本の内需が外国人によって満たされるという10年前には考えられなかった、うれしい転倒が起こっている。世界どこを旅しても「日本ほど安く安全、美味しいところはない」ということを世界の旅行者が知ってしまった。

 

コロナパンデミック終息後は、日本の安価・高品質の観光資源・サービスをめがけて観光需要は急増するだろう。つまり日本の内需(=国内産業)が世界の需要家に対して門戸を開くということが起きる。それは著しい割安水準に放置されてきた国内サービス関連の物価水準の大幅な是正に結び付くだろう。

 

内需関連価格の内外価格差が何故大きいのかは、補論として後述している「コスパが特に良い日本の観光業、バラッサ・サムエルソン仮説が効く」をご覧いただきたい。

 

「安いニッポン」批判、「さらに安くする円安批判」は間違いだ

「安いニッポン」批判、「安いニッポン」をさらに安くする円安批判が渦巻いているが、それらの議論は因果関連と同義反復(トートロジー)を混同している。「安いニッポン」も円安も日本経済凋落の結果であり、それ自体は望ましくないことではあるかもしれない。

 

例えば野口悠紀雄氏は、「円安が望ましいとの考えは誤り、円安は日本の労働力を安売りすること、消費者の立場でみれば購買力を低める。日本の産業の付加価値を高めようという意思をくじく、優秀な外国人を呼べなくなる。」(週刊エコノミスト)と主張しているが、それは結果論でしかない。

 

最大級の日本強気材料

現在我々を取り巻く多くの情勢要素の中で、何が過去起こったことの結果であり、何が将来起こることの原因なのか、という因果関連分析に基づく事実(ファクト)のふるい分けが必須である。

 

繰り返しになるが、武者リサーチは将来の原因として各国経済分析で最も大切な要素は国際的価格競争力であり、それは日本の将来に対する最大級の強気材料と考える。

 

(補論)コスパが特に良い日本の観光業、バラッサ・サムエルソン定理が生きている

 

なぜ日本の国内価格が外国人から見て、魅力的なのか、それは国際経済理論にバラッサ・サムエルソン仮説で解釈が可能である。

 

世界の賃金は一物一価であり、労働生産性が同一の二か国の労働賃金は同一になるという原則から出発する。

 

但し、それは相互に国際市場で競争をしている貿易財(主に製造業)に対してのみあてはまることである。それでは国際市場で競争をしていないサービス業など各国の内需産業の賃金はどう決まるのかと言うと、その国の貿易財産業で形成された国内賃金相場にサヤ寄せされて決まる。

 

つまり貿易財産業においてA国の生産性がB国の2倍であれば、A国の貿易財産業賃金は、B国の貿易財産業の2倍になる。A国のサービス産業の賃金もB国の賃金の2倍になる。この場合A国、B国のサービス産業賃金は生産性に関係なく決まるということである。

 

概してサービス産業、例えば床屋さんの生産性は、先進国でも新興国でもあまり違いがない。しかし先進国の床屋さんの賃金は新興国の10倍にも相当する、ということが起きる。つまり生産性あたりの賃金価格差が、サービス産業において特に大きく開いているのである。

 

しかしここで国際交流が活発になり、サービス産業にも外国人の顧客がつくようになれば、事情は変わってくる。B国の割安なサービス産業(生産性があまり変わらないのに価格が半分)に海外需要が殺到することになる。

 

日本の観光関連の価格が国際比較で大いに割安化していることは、中藤さんの著書から明らかなので、観光需要が大きく増加する。

 

「安いニッポン」は、観光という国内産業に現れた外需によって、大きく是正されていくということが期待される。

 

このように「安いニッポン」は製造業以上に、内需産業へのアップサイド圧力を強めることになる。観光業の隆盛が日本のデフレ脱却の牽引力になると考えられる。

 

 

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

 

 

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株式会社武者リサーチ 代表

1949年9月長野県生まれ。
1973年 横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社し、調査部に配属。87年まで企業調査アナリストとして繊維、建設、不動産、自動車、電機・エレクトロニクスを担当。ニューヨーク駐在の大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て、1997年1月ドイツ証券入社し、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーに就任。2009年7月株式会社 武者リサーチ設立、現在にいたる。

著者紹介

連載武者リサーチ経済・金融市場分析レポート

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