(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2021年10月19日に公開したレポートを転載したものです。

日本の価格競争力は大きく強化され続けている

「安いニッポン」に加えての円安が日本企業の価格競争力を強化

日本の物価の安さ、労働賃金の安さが際立っている。

 

21世紀に入って日本の賃金はほとんど上昇しなかった。その結果、平均賃金の水準では、G7でイタリアと最下位を争い、2015年には韓国に抜かれ、差が開く一方である[図表9]。

 

[図表9]主要国の実質賃金推移 (2000=100) (出所:出所: OECDデータより全労連作成、日本は毎月勤労統計調査より)
[図表9]主要国の実質賃金推移 (2000=100)
(出所:OECDデータより全労連作成、日本は毎月勤労統計調査より)

 

またビックマック価格は世界最高のスイスの約半分、韓国・ブラジルよりも安くなっている。ダイヤモンド社は物価・賃金のみならず、株価、不動産価格がバーゲン状態となり、外資に買い漁られている実態を報告している。

 

この著しく安くなった日本に円安が襲いかかろうとしている。円安で「安いニッポン」がさらに安くなる。「安いニッポン」も「安いニッポンをさらに安くする円安」も、それ自体は日本凋落の結果ではあり望ましいことではない。

 

しかし将来展望という観点から見れば日本にとって朗報である。なぜなら各国経済盛衰の鍵が国際的価格競争力であるが、「安いニッポン」と円安が日本の国際競争力を高め日本経済の好循環を引き起こすと考えられるからである。

 

そもそも「高いニッポン」と円高が悪循環の出発点であった。「高いニッポン」が円高でさらに高くなり、日本の価格競争力は劇的に低下した。

 

円の実質購買力(=企業のコスト)は50年前の水準に戻った

週刊エコノミスト誌は、「安い日本 超円安時代」との特集(10月5日)で、円安が日本人の購買力を引き下げ、賃金を引き上げられない日本人をさらに貧しくしている、と描写している。

 

デフレであるのに円安が進行してきたため、実質実効レートでみれば、現在の1ドル110円の水準は、1973年変動相場制移行以前の1ドル360円時代とほぼ同等である。

 

つまり円の購買力は50年前に水準まで低下している[図表10]。「これは大変だ、困ったことだ」という反応が蔓延しているが、そうだろうか。

 

[図表10]円の実質実効レート(=国際的購買力)の推移図表
[図表10]円の実質実効レート(=国際的購買力)の推移図表

 

2000年以降日本の単位労働コスト低下は世界一

逆だろう。それは日本企業の価格競争力が1ドル360円時代に戻っているということ、を意味している。

 

[図表11]に見るように製造業の価格競争力を端的に示す、ドルベースでの単位労働コストは、2000年以降日本は世界で最も大きく低下し、日本のコストはここ20年間に、対中国、対韓国、対米、対ドイツで軒並み大きく改善していることがわかる。

 

これにさらなる円安が加われば価格競争力は一段と向上する。

 

[図表11]主要国のユニットレーバーコスト推移
[図表11]主要国のユニットレーバーコスト推移

 

すでに過去最高水準に戻った企業利益率

今、物価・賃金安に加えての円安で、日本企業の価格競争力は過去30年間で最も高まっているのである。

 

円安のメリットは海外生産している企業にとっては海外法人利益の円換算額の増加という形で現れる。すでに法人企業の経常利益率は、コロナショックから経済が立ち上がる前の2021年4~6月時点で、過去最高水準まで回復している[図表12]。

 

今後さらなる業績向上はほぼ確かであり、企業の支払い能力の向上と技術労働者の需給ひっ迫から賃金上昇に結び付くだろう。

 

国際競争力向上はグローバル製造業と、数年後に急拡大が予想される観光関連国内産業で顕在化すると考えられる。今大切なことは円安を進めるために、超金融緩和をできる限り持続させることである。

 

[図表12]法人企業経常利益率推移
[図表12]法人企業経常利益率推移

 

次ページ極端な割安さ、日本のサービス価格

本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録