日本の価格競争力は大きく強化され続けている
「安いニッポン」に加えての円安が日本企業の価格競争力を強化
日本の物価の安さ、労働賃金の安さが際立っている。
21世紀に入って日本の賃金はほとんど上昇しなかった。その結果、平均賃金の水準では、G7でイタリアと最下位を争い、2015年には韓国に抜かれ、差が開く一方である[図表9]。
またビックマック価格は世界最高のスイスの約半分、韓国・ブラジルよりも安くなっている。ダイヤモンド社は物価・賃金のみならず、株価、不動産価格がバーゲン状態となり、外資に買い漁られている実態を報告している。
この著しく安くなった日本に円安が襲いかかろうとしている。円安で「安いニッポン」がさらに安くなる。「安いニッポン」も「安いニッポンをさらに安くする円安」も、それ自体は日本凋落の結果ではあり望ましいことではない。
しかし将来展望という観点から見れば日本にとって朗報である。なぜなら各国経済盛衰の鍵が国際的価格競争力であるが、「安いニッポン」と円安が日本の国際競争力を高め日本経済の好循環を引き起こすと考えられるからである。
そもそも「高いニッポン」と円高が悪循環の出発点であった。「高いニッポン」が円高でさらに高くなり、日本の価格競争力は劇的に低下した。
円の実質購買力(=企業のコスト)は50年前の水準に戻った
週刊エコノミスト誌は、「安い日本 超円安時代」との特集(10月5日)で、円安が日本人の購買力を引き下げ、賃金を引き上げられない日本人をさらに貧しくしている、と描写している。
デフレであるのに円安が進行してきたため、実質実効レートでみれば、現在の1ドル110円の水準は、1973年変動相場制移行以前の1ドル360円時代とほぼ同等である。
つまり円の購買力は50年前に水準まで低下している[図表10]。「これは大変だ、困ったことだ」という反応が蔓延しているが、そうだろうか。
2000年以降日本の単位労働コスト低下は世界一
逆だろう。それは日本企業の価格競争力が1ドル360円時代に戻っているということ、を意味している。
[図表11]に見るように製造業の価格競争力を端的に示す、ドルベースでの単位労働コストは、2000年以降日本は世界で最も大きく低下し、日本のコストはここ20年間に、対中国、対韓国、対米、対ドイツで軒並み大きく改善していることがわかる。
これにさらなる円安が加われば価格競争力は一段と向上する。
すでに過去最高水準に戻った企業利益率
今、物価・賃金安に加えての円安で、日本企業の価格競争力は過去30年間で最も高まっているのである。
円安のメリットは海外生産している企業にとっては海外法人利益の円換算額の増加という形で現れる。すでに法人企業の経常利益率は、コロナショックから経済が立ち上がる前の2021年4~6月時点で、過去最高水準まで回復している[図表12]。
今後さらなる業績向上はほぼ確かであり、企業の支払い能力の向上と技術労働者の需給ひっ迫から賃金上昇に結び付くだろう。
国際競争力向上はグローバル製造業と、数年後に急拡大が予想される観光関連国内産業で顕在化すると考えられる。今大切なことは円安を進めるために、超金融緩和をできる限り持続させることである。