高まる「半導体」の世界的需要…日本の〈再参入〉に世界から熱視線が向けられる「特殊な事情」【専門家が解説】

高まる「半導体」の世界的需要…日本の〈再参入〉に世界から熱視線が向けられる「特殊な事情」【専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

絶望の淵に立たされていた日本の半導体産業が、ここにきて大復活を遂げつつあります。その要因として、「天の時」「地の利」「人の和」が味方をしていることが挙げられると、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は言います。いま、日本の半導体産業を取り巻く状況について詳しく見ていきましょう。

“絶望”から生還した、日本の半導体産業の「今」

数年前まで日本の半導体産業は世界のマイナープレーヤーに過ぎないと、誰もが考えていた。「技術者はいない、先端技術ははるか前に失われた、半導体を支える需要もない、半導体企業のチャレンジ精神もない」、無いないづくしであった。

 

しかし今、誰もが夢にも思っていなかった大投資ブームが起きている。その牽引車は半導体の受託生産で世界最大手の台湾企業「TSMC」による熊本工場の始動である。2月に第1工場が完成したのに続いて、6ナノメートルの先端半導体を生産する第2工場の建設も決まり、第3工場も視野に入っている。

 

これまでに決まった投資総額は3兆4,000億円、日本政府は1兆2,000億円の補助を約束している。熊本県ではこの投資ラッシュにより土地は値上がりし、人不足から賃金は上昇、交通渋滞が起きるなどブーム状態である。

 

更に北海道千歳では先端半導体の国産化を目指すラビダスの工場建設が始まり、キオクシア・ウェスタンデジタル(北上・四日市)、マイクロンテクノロジー(広島)、サムスン(横浜)等、すでに4兆円の政府補助が決められている。

 

この投資規模と迅速さは、米国、中国、韓国、ドイツなど各国政府が進めている半導体産業支援の中でも先頭を走っている。国の支援を追い風に、半導体メーカーだけでなく、装置メーカー、材料メーカーなど関連各社が投資を拡大し産業連鎖の好循環が起きつつある。

 

米中対立を原因とする政府主導プロジェクトを世論が歓迎

この半導体ブームは周知のように、米中冷戦という地政学環境の変化が起点となっている。世界サプライチェーンからの中国排除という米国の筋書きに従い、日本産業復活が進行していると言うことである。東アジアにおけるハイテク製造業のハブは、30年前に日本から中国、韓国、台湾に移った。これが日本に戻ってくるというイメージがほぼ確かになっている。

 

[図表1]企業国籍別半導体シェア
[図表2]国・地域別半導体生産シェア
[図表3]半導体メーカー国籍別シェア、生産シェア(2021年)

 

この日本政府主導による力ずくの半導体育成が功を奏するのだろうか。余りにも時期尚早ではあるが、3つの要因により勝機は大きいと判断される。

 

第一は日本の決意と懐具合である。日本政府には巨額の含み益、言わば埋蔵金がある。日銀のETF投資収益が株価の値上がりにより30兆円を超えている。また米国財務省証券保有による膨大な為替益がある。保有残高1.1兆ドル、1ドル110円での取得だとすると、150円で44兆円の巨額の為替換算益があると計算される。これらは政治の判断一つで起死回生の国家プロジェクト資金としてすぐにでも投入できるものである。

 

米国やドイツなどでは国による半導体産業支援に対する批判があり建設はスムーズではないが、失地回復を切望する日本の世論は政府のイニシャティブを熱く支援している。この政府とそれを支援する世論を「人の和」とすれば、「天の時」、「地の利」も日本の半導体産業復活に味方しそうな形勢である。

 

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次ページ世界的に半導体の需要が加速する=「天の時」

※本記事は、武者リサーチが2024年3月18日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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