「伝えたいことがある」と話す佐野若菜さん(仮名)

先天性心疾患を抱えて生まれ、12歳という若さで亡くなった双子の妹。そんな病気の妹に対して「羨ましい」と思っていたと話す姉の佐野若菜さん(仮名)は現在25歳。彼女は同じ苦悩を抱える人へ伝えたい思いがあるといいます。今回はそんな彼女の幼少期の苦しみと、彼女を救った医師の言葉をご紹介します。

妹の死と、押し寄せる後悔

「妹の病状はもう、誰が見ても長く生きられないとわかるほど悪くなっていました。小学校6年生に上がった頃には、医師からも『覚悟を決めてください』といわれるほどで……。

 

さすがにその頃には、私も妹に対して以前のような卑屈な思いはもう抱いていませんでした。何があってもやっぱり双子ですから…ただ、生きていて欲しい、会えなくなるのが嫌だと、そう思って毎日『明日も生きていますように』と祈っていましたね」

 

しかし、そんな彼女の祈りもむなしく、約半年後に妹・紗菜さんは亡くなってしまいます。

 

原因は、肝機能の著しい低下だったそう。

 

「覚悟はしていたつもりです。日に日に痩せていき、肌の色も悪くなっていく妹をずっとそばで見ていましたから。でもやはり、亡くなってしまうと、一気に後悔の波が押し寄せてくるものなんですよね。あの日『運動会楽しかった?』と笑顔で尋ねる妹に、なんで冷たく返事をしてしまったのだろう。一番参加したかったのは彼女で、一番我慢していたのも妹だったのに……。気を遣って母を運動会に参加させてくれたのに……」

 

当時を思い出しあふれる涙を抑えることができない若菜さん。

「若菜ちゃん、ずっと苦しかったね」

もう目を開くことのない妹さんの横で、うなだれるようにして座っていたという若菜さん。

 

そこに医師がやってきたそう。

 

「妹のためにずっと治療をしてくださっていた医師でした。先生は、私の肩に手を置いて言いました。『妹さんを救ってあげられなくて、申し訳なかった……』と。先生や看護師さんはずっと懸命に治療してくださっていました。だからとんでもない、と返事をしようとしたんです」

 

そうして顔をあげた若菜さんを制するように、医師は続けたと言います。

 

『若菜ちゃん、ずっと苦しかったね。紗菜ちゃんがずっと病気と闘ってきたように、若菜ちゃんが誰よりも我慢して、文句ひとつ言わず耐えて頑張ってきたの、ちゃんと見ていたからね』

 

「涙が止まりませんでした。そんな優しい言葉をかけられても、今は妹に優しくできなかった自分を悔いることしかできない……。そう思いつつ、私のことも見てくれていた人がいたことにすごく救われたんです。『苦しかった』。そう初めて言葉にすることができました」

同じ思いをしている人に伝えたい

12歳という若さで、双子の妹を失った若菜さん。

 

あれから13年、彼女は25歳になりました。

 

彼女は同じように病気の兄弟を抱える人へ伝えたい思いがあるといいます。

 

「兄弟が病気だと、どうしてもその子中心の生活になってしまいます。もちろん病気の子本人はすごく頑張っているしつらい思いをたくさんしています。でも、私はあの時の医師のように、その兄弟の方にも言ってあげたい。『頑張ってるね、苦しいね』って。

 

……解決策もない、救いようのない話になってしまいましたけど、同じような人がいるよってことだけでも伝われば嬉しいです」

 

そう話す若菜さんの想いが、たくさんの人に伝わることを願わずにはいられません。
 

 

 

 

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