息子は自閉症スペクトラム障害(ASD)
「自閉症だと診断がおりた時は、心の底からホッとしました」
そう語るのは、自閉症スペクトラム障害の4歳の息子さんを持つ、坂下優美さん。
発達障害と診断されて、なぜか安心したと話す坂下さんの当時の心境はいったいどのようなものだったのか……。今回は体験談を語っていただきました。
「歩かない」「話さない」息子の発達に覚えた違和感
坂下さんが、最初に異変に気付いたのは、息子さんがまだ1歳になりたての頃。
全く歩こうとしない、言葉を発する素振りすらない。
そんな状態だったという。
「1歳になるまでは、身体的なこともそうでしたけど成長がゆっくりな子なのかな? くらいにしか思っていませんでした。男の子は成長が遅めだとよく聞きますし、その頃はまだ周りにも息子と同じくらいの発達スピードの子たちがいたので…。でも、1歳を過ぎた途端、その子たちも次々と歩いたり発語が始まったりしていったんですよね。さすがに焦りましたし、なにかおかしいぞ、と思い始めました」
違和感を覚えた坂下さんは、ネットや本で発達について調べるようになったと言います。
「調べると、これもあれも!と息子に当てはまる特徴ばかりのものがヒットしました。それが自閉症スペクトラム障害だったんです。その時初めて自閉症を疑いましたが、息子の様子を見ていて、なにかしら発達障害を抱えているかもしれないことは予測していたので、そこまでショックではありませんでした。それよりは、今後私と息子はどうしたらいいのか、そこを考えていましたね」
夫に否定されてもなお息子を信じることができない苦悩
息子さんの自閉症を疑った坂下さんは、まず夫に相談することにしたのだとか。
息子を一緒に育てている夫ならわかってくれるはずと信じていたそう。
しかし―――
「私の話を聞いた夫の返事は『まさか』の一言でした。『俺はそんな風に思ったことはないよ』そう言われてしまいました。私こそ、まさかでした。日々息子の発達に違和感を覚えながらそばにいて、当然夫もそうだと思っていたので……。少し不機嫌になってしまった夫にそれ以上何も言うことはできませんでした」
同意してくれると思っていた夫に否定され、戸惑ったという坂下さん。
もう少し様子を見た方がいいのかと、悩んだという―――
「でも、息子と周りの差は1歳を境にどんどん開いていきました。周りの子は歩いて、話して、食べて、普通に成長しているけど、息子は何をするにも時間がかかる。そもそも彼自身が、“歩きたい”とか“話したい”、“食べたい”みたいに何か新しいことをしたいという気持ちがないように見えるんです。無理にさせようものなら、癇癪やパニックを起こす始末。私はもうそれ以上放っておくことはできませんでした」
『お母さん、まだ早すぎる』
こうして、息子さんを病院に連れていく決心をしたのだそう。
病院に連れて行けば、絶対何かわかるはず。そう期待していました。
「病院でお医者さんに診てもらいました。その時、息子は1歳2か月。私は普段と違う場所に慣れず、泣きじゃくる息子を抱え、医師に違和感について話をしました。すると医師は言ったんです。『お母さん、まだ早すぎる』と。『発達スピードには個性が出ます。ここで診断するのは早計です』そう言われてしまいました」
そうありきたりな言葉を並べられ、結局ロクな検査もしてもらえず「様子を見る」ということで帰されてしまったといいます。
「病院に行けば何かわかるはずだと思っていたので、ショックでした。お医者さんが取り合ってくれなかったことが悔しかった。でもその頃はまだ行動する力が残っていたので、今度は療育も請け負っている別の医療センターに息子を連れて行ったんです」