急先鋒となるのが食品の小売りという理由
■中国発「ニューリテール」モデルが世界に波及する
アリババのジャック・マー(馬雲)会長が2016年に提唱した「ニューリテール」という言葉を欧米の小売業幹部が耳にしたら、おそらくは「ニューリテールね。はいはい、おっしゃるとおり」と何度もうなずきながら、それはわかっているという表情を見せるのではないか。
だが、実際には、このニューリテールが何を意味するのか正確に理解せず、わかったようなふりをしている人も多い。いや、もっとひどいのは、戦略や遂行の面での「オムニチャネル」のことかと勝手に思い込んでいるケースだ。
確かに、オムニチャネルとニューリテールの違いは微妙なのだが、その微妙な部分にこそ、大きな違いがあるのだ。
作家でアドバイザーのマイケル・ザッコアによると、この2つの概念を混同すると、破滅への道をたどることになるという。
私は2018年春にサンディエゴで開催された小売りの未来に関する会議でザッコアに出会った。彼が注目しているのは、電子商取引分野での中国の役割だった。実際、そのテーマで著書もあるほか、中国の「ニューリテール」モデルや欧米ブランドが理解しておくべき中国の現状について、新たな書籍を執筆しているところだった。
その日は短いやり取りで終わったが、ザッコアがまさにこの分野のエキスパートであることは一目瞭然だった。ザッコアは、コンサルティング会社のトンプキンス・インターナショナルで10年近くにわたり中国・アジア太平洋地域のデジタル・顧客グループやデジタルトランスフォーメーショングループの責任者を務め、世界各地でコンサルティングを手がけてきた。現在、自身の会社5ニューデジタルを率い、企業のニューリテール原則の採用・導入の支援に当たっている。
その後も連絡を取り続け、ザッコアが2019年7月に新刊の『New Retail: Born in China Going Global』を上梓した際、私も1冊いただいた。以来、私はこのテーマに関して何度となくインタビューさせてもらっている。
パンデミックになるまで、欧米のブランド各社はアジア市場の動きにあまり関心を持っていなかったとザッコアは言う。だが、パンデミックになり、欧米のブランド各社が中国の小売業界の回復ペースを目の当たりにしてからというもの、ザッコアへの問い合わせの電話が引きも切らない状態になった。
パンデミックの最中に、欧米の小売業者よりも中国の小売業者のほうが顧客ニーズに対応する力が大きく上回ったのはなぜか。ザッコアによれば、理由は単純だという。
「電子商取引の世界では、何をするにせよ、急先鋒となるのが食品の小売りなのです」
そう聞いて、アマゾンの食料品進出との不思議な符合を思い出すが、決して偶然ではない。この点をもう少し掘り下げてみよう。