アマゾンやウォルマートなど欧米の小売業者が採用
・新しいコマース……顧客がブランドや他の顧客とオンラインでふれあえるさまざまな手段が用意される。これには、オンラインからオフライン、あるいはオフラインからオンラインへの連携(O2O)、B2C、C2C、B2Bが含まれる。
・新しいメディアとエンターテインメント……ストリーミング、AR・VR(拡張現実・仮想現実)、現実世界でのイベント、ゲーム、ソーシャルショッピングなど、顧客の関心を喚起するさまざまな手段が用意される。
・新しいロジスティクスとサプライチェーン……先進の技術と物流システムを活用し、サプライチェーンから配送のラストマイルに至るまで迅速に商品を流す。バリューチェーン上のあらゆる決定やステークホルダーへの情報提供にデータを活用する。
新しいデジタル技術、資金調達、IT……顧客と販売業者の双方を支援するシステムやプラットフォーム、サービスを揃え、業務のサポート・資金調達・情報提供に役立てる。
こうした要素が結合すると、何が起こるのか。
その好例が、アリババによる中国映画『永遠の桃花~三生三世~』(原題『三生三世十里桃花』)の製作・プロモーションだ。元々は、中国版ユーチューブと言えるアリババの動画投稿サービス「優酷」でシリーズ化された配信ドラマ作品である。
ドラマはヒット作となり、その波に乗って2017年に映画化されることになった(訳註:ドラマと映画の原題は同じだが、英語版と日本語版のタイトルは映画化に際して、『Once Upon a Time』、『ワンス・アポン・ア・タイム 闘神』にそれぞれ変更されている)。
製作費調達には、アリババのクラウドファンディング部門を担う娯楽宝を活用した。続いて、チケットは、同社のチケット販売アプリ「淘票票」で販売された。最後に、Tモールで3億元(48億円、1元=16円で計算)を超える関連商品の販売につなげている。このエンターテインメント系エコシステムを活用して商取引を促進した手法は、アリババによる顧客との関係づくりの重要な柱となっている。単なる広告ではなく、双方向性を確保し、ネットでの情報共有、商品購入も可能なメディア体験にしているからだ。
もう1つ付け加えておきたいのだが、私が本書を7~8年前に書いていたら、アジアの小売業者は欧米発のイノベーションをコピーしているだけと批判していたかもしれない。
今は変革の風向きが変わり、今度は中国発のニューリテールモデルを、アマゾンやウォルマートなど欧米の小売業者が採用するようになっている。先ごろアマゾンは高級品販売に進出したが、これもTモールラグジュアリーパビリオンの戦術をそのまま取り入れたものである。
ザッコアが言うように、アリババのようなブランドを相手に戦うつもりであれば、取り得る戦略上の選択肢は限られてくる。「こうしたエコシステムに参加するほかないでしょう。こういった巨大マーケットプレイスには、ツールもインフラもあり、顧客もいるので、これを生かすということです。それだけでなく、ブランド自らミニエコシステムを構築しなければならない」という。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント