「もし僕が先に死んだら、父からもらった財産は…」
柏原さん夫妻にはお子さんがいません。また、同じ会社の総務部門で働いている6歳年上の妻は再婚で、前の夫との間に中学生の男の子が1人います。ただ、前の夫が自分の実家で育てており、柏原さんは会ったことがないそうです。
「もし僕が先に死んだら、父から受け継いだ財産の大部分は妻のものになり、面識のない妻の子どもが相続することになります。僕が稼いだお金なら構いませんが、父が築いた財産を血縁のない相手に渡すのは、正直、抵抗があるんですよ。僕の弟には男の子と女の子、2人子どもがいますから、父からもらった財産は、できる限り、弟に渡せるようにしたいんです」
柏原さんの両親は、結婚相手として妻を紹介したときも、笑顔で迎え入れてくれたそうです。ただその後、父親から「子どもはできるだけ早くもった方がいいぞ。本当にかわいいからな」といわれたのが、唯一のアドバイスらしきものだったということでした。
「自分でも調べましたが、もし僕が先に亡くなったら、相続の割合は妻が4分の3、弟が4分の1ですよね。大部分の財産は妻が相続することになりますよね…」
「弟に不動産を残す」内容で遺言書を作成
筆者は、柏原さんに遺言書の作成を提案しました。柏原さんは父親から相続した自分名義の財産について、可能な限り多くの不動産を弟に相続させる内容で遺言書を作成しました。もし妻が先に旅立つのなら、このような心配は不要ですが、先のことはだれにもわかりません。
柏原さんは、遺言を完成させたあと、「少なくともこれで、妻の親族に実家の不動産を渡すことは避けらそうです」と安堵の表情を浮かべました。
このたびの柏原さんのケースでは、お子さんがいないため、柏原さんが亡くなったときの相続人は妻と弟になります。法定割合は上記の柏原さんの言葉通り、妻が4分の3、弟が4分の1となり、配偶者である妻のほうが高くなります。
もし柏原さんが先に他界した場合、妻に相続された財産は、いずれ妻の前夫の子どもが相続することになります。また、もともとは柏原さんの父親の不動産であっても、名義が妻になってしまえば、柏原さんの弟家族はなにも口出しすることができません。
このように、以前の配偶者との間に子どもがいる方の場合、その方が亡くなると、現在の配偶者だけではなく、子どもも相続人になります。状況によっては、子どもへの相続が発生することで、現在の配偶者の生活が不安定になるリスクもあるため、「相続人のその後の暮らし」にまで配慮した遺言書の作成が重要となります。被相続人の立場となる方には、先々まで考慮した遺言書の作成をお勧めします。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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