具体的に「とれる措置」を、過去の裁判例で確認
管理規約のペット飼育禁止条項に基づく差止請求を肯定した裁判例【東京地判平成8・7・5判時1585・43】があります。
同裁判例においては、ペットの飼育に関しては、悪臭等の有形の問題のほか、動物の存在自体が不快感を生じさせる等の無形の問題があること、買主の良識に委ねることには限界があること、実害が発生した場合に限り規制するというのでは無形の問題に対処できず、発生後の実害の防止は容易でないこと等から、規約の公正さ・明確さを期すため類型的に飼育を制限する規約を共同利益背反行為として規定し、具体的損害やその蓋然性にかかわらず規約違反行為として差止めの対象となると判断しています。
なお、ペット飼育頭数や飼育環境の変化から、同裁判例の論理が現在でも妥当するのかには疑問の余地があり、この点指摘する文献があります(鎌野邦樹ほか編著「マンション法の判例解説」勁草書房、2017、94頁)。
ただ、ペットを禁止する旨の規定があり実際上も当該規約に従った運用がなされていた場合に、実害の有無を問題にするのはいわば「やったものがち」を招くことも危惧されます。
したがって、差止請求においては、当該マンションの管理規約の合理性とその運用実態を重視すべきであり、実害の発生は補強要素にとどめられるべきです。参考として、東京地裁平成19年1月30日判決(判秘。規約の解釈について当該マンションの規約運用実態を重視した事例)があります。
本ケースの「差止請求」は認められるのか
本ケースでは管理規約にペット飼育禁止の規定がおかれ、実際の運用においても分譲以来ペット飼育が一切禁止されてきています。
さらに、当該規約に違反して飼育しているのは、小型犬です。小型犬とはいえ、犬は、一般的に、鳴き声による騒音、糞尿による悪臭、抜け毛による衛生問題等が発生する可能性の高い生き物です。
したがって、違反者に対し、共同利益背反行為に該当するとして区分所有法57条に基づく差止請求やペット飼育禁止規約に基づく差止請求が認められる可能性が高いといえます。
香川 希理
香川総合法律事務所 代表弁護士