患者満足の評価は「医療の質」の評価である
2.患者満足の要因を探る
本連載では、慢性疾患患者を対象としていることから、慢性疾患患者が多く利用する外来診療に焦点をあてて、患者満足の研究を整理する。この領域においては英国、米国の研究が先駆的、代表的であることから、英国、米国と日本の3カ国の文献を中心にまとめ、外来診療の患者満足について理解を図る。
(1)患者による満足の評価は、医療の質評価の一部である
医療に関する総合的な評価である、医療の質評価の代表的理論を構築したDonabedian(1980)によると、医療の質評価には、構造(Structure)、過程(Process)、結果(Outcome)の3つのアプローチが存在する。
・構造とは、①物理的な構造、施設、設備、②運営母体、臨床研修指定の状況などの総合的な組織特性、③理事会の構成や活動などの管理組織、④医療者の資格や仕事量に対する人数、⑤職員への教育的機能など活動を規定する考え方、⑥財政状況、⑦地理的な要素、距離、周辺の状況などを示す。
・過程とは、①疾病発見活動、②診断活動、③定期受診や薬剤使用、手術などの治療、④患者の紹介と依頼、⑤医療の整合性と治療の継続性(患者の様々なステージに関わること)、⑥地域の他機関や資源の利用などを示す。
・結果とは、提供された医療に起因する個人や集団の変化を表し、①疾病率や死亡率、障害率、合併症、身体機能の回復など健康上の結果、②患者満足を示す。この患者満足とは、医療およびその結果に対する患者や家族の満足を意味している。
つまり、患者満足は医療の質評価の一部であり(Donabedian, 1980)、そこには患者やその家族による治療に関する技術的な質の評価に加えて、患者およびその家族が判断した、主観的な医療の良さや質が含まれる。医療の評価は長い間、医療関係者の医学知識が優先されがちであった。しかしながら、いまや患者中心の医療に変わり、患者の権利を第一に考えることが、医療行為の原則になっている(Committee on Quality of Health Care in America, and Instituteof Medicine Staff, 2001)。
患者満足の研究は、古くから行われている。その背景は、120年以上をさかのぼる。1900年初期、米国の外科医師Ernest Codmanは、「自分が行う手術が、適切かどうかを自身で判断してはいけない。他の外科医が、第三者的な立場から評価する仕組みをつくらなければならない」と医療評価の客観性について訴えている。
その後、1918年米国外科学会では「すべての病院は、患者に対し説明する責任があり、それにより病院の成功の度合いが左右される」と声明を出している(馬場園,2007)。
1950年代後半には、英国、米国で消費者運動が活発化し、医療の質評価にも、患者を参加させる流れがはじまった(Linder-Pelz, 1982a)。一方、我が国で患者満足研究が盛んになった背景について、深井(2003)は、①患者は、サービス受給者としての権利意識や医療に関する知識を高め、より質の高い医療と納得できる説明を求めるようになったこと、②医療の高度化と医療費の増加の中で、医療の質を保証し改善するための医療評価が求められていることを挙げている。
以上のように、医療に対する第三者の客観的な評価と患者への説明の必要性が、患者満足研究を盛んにした。