料理道具は「機能的要素」が求められる
一方、料理道具は「機能的要素」も大きく求められます。包丁はよく切れること、フライパンは肉がおいしく焼けることなど、使い手が求める機能があるかどうかで選ばれます。機能的要素は実際に試してみなければわかりません。
さらにいうならば、一つだけを試しても良しあしはわかりにくいものです。いくつかを試し比べてこそ、ほかとの違いや特長を理解できるのです。
一人目の神様が探していた「軟らかい食感を出せるおろし金」のときもそうでした。その上、おろし金一つとってみても、大根をふわふわ食感にしたい方もいれば、シャキシャキした歯応えの食感が好みの方もいらっしゃいます。
ならば飯田屋は、どんな価値観を持ったお客様がいらしても対応できるように、商品を徹底的に集めようと決意しました。見た目にはわかりにくい価値を伝えるために、僕たちがさまざまな商品を実際に試し比べてみればいいのです。
「たった一人のお客様に、感動をしてもらえる商品を揃えよう!」
「たった一人のお客様に、喜んでもらえる商品が一つ売れればいい」
そのために、さまざまなニーズに合う商品をたった1点でいいから、たくさんの種類を集める「1個在庫・多品種展示」で勝負することにしました。商品包装がなくとも、無名のメーカーであっても、職人のこだわりを感じられる価値のある商品ならばいいのです。
■ところが全員が大反対!
笑顔の濃度が高い料理道具で、1個在庫・多品種展示で勝負すると決めると、真っ先にやめなければならないことがありました。精肉店のための道具やメラミン食器、メニュー帳、看板、白衣、食券など、つまり料理道具以外のすべての品揃えです。
そこで、そうした商品が売れても補充せず、空いた棚に少しずつ新しい料理道具を増やしていきました。すると……。
「いつも買っている白衣はどこ?」
「前に買った食器を買いに来たんだけど?」
料理道具はもともと飯田屋の品揃えのたかだか20%ほど。料理道具以外の80%の商品を買いに訪れるお客様からのクレームが殺到しました。
「おまえ、客を切るってことか?」
「もういい、おまえの店には二度と来ない!」
「おまえみたいに客を大切にしないやつが店を潰すんだ!」
昔からお付き合いがあるお客様の中には、これまであった商品がなくなったことに憤りを感じる方も少なくありませんでした。
「商品を変えると、これほどまでにもお客様を怒らせてしまうんだ……」
もう後戻りはできない一本道を進んでいることを、僕はあらためて知ったのです。