1円硬貨を作る技術がある会社の雪平鍋
■「1個在庫、多品種展示」の理由
市場調査をしていると、奇妙なことに気づきました。
駅チカの大型商業施設の大手総合専門店にも、まちなかの小さな店にも、どこにでも必ず置かれている商品の存在です。似たようなラインアップが並び、商品説明もほとんど同じ内容が書かれていました。
料理道具には売りやすい商品があるのです。
たとえば、雑誌やメディアに取り上げられて認知度の高い商品です。それらは機能的に優れていたり、ファッション性が高かったりといくつかの理由がありますが、棚に置いておくだけでお客様を惹きつけます。
ならば飯田屋でも取り扱えないかと考え、気になった商品を片っ端から写真に撮り、商品表示シールに記されているメーカーのお客様相談室に電話をかけてみました。
「かっぱ橋道具街に店を構えている飯田屋ですが……」
しかし、「おたくは何屋さん?」「新規の取り扱いは一切しておりません」と断られるばかり。新規の取り扱いを認めてくれたとしても、ほとんど利益にならないような掛け率を提示されたりしました。
売れるとわかっているのに、仕入れたい商品が思うように仕入れられません。悔しさが募るばかりでした。
飯田屋がようやく手に入れられるのは、どれも無名メーカーのもの。商品の包装すらないような武骨な道具ばかりでした。もちろんバーコードなんて付いていません。
初めはやむを得ず仕入れていました。しかし、実際に手にして特長を調べてみると、ほかにない技術でつくられた商品が多いことに驚かされます。
アカオアルミの雪平鍋もその一つでした。同社は業務用では超有名企業で、1円硬貨用アルミニウム円形を製造する技術を持ち、その製造を許された唯一の会社です。
しかし、残念ながら一般には知られていません。その技術力の高さや商品の持つ特長も一見しただけではわかりません。
商品には「情緒」と「機能」という二つの要素があります。
皿などは「情緒的要素」が高い商品と言えるでしょう。持ちやすさや割れにくさなど機能的な一面もありますが、それ以上に見た目の好みやその場の雰囲気に合うかどうかで選ばれます。メディアが取り上げる料理道具には、この情緒的要素が高いものが好まれる傾向がありそうです。