圧倒的な品揃えを誇る「1個在庫・多品種源氏」の店内。

「1個在庫、多品種展示」…、どんな価値観を持ったお客様がいらしても対応できるように、商品を徹底的に集めようと決意した店長。しかし、全従業員、そして母親からも大反対された。もう後戻りできない一本道を進むだけ。※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

「売れない商品を棚に置いても…」母も猛反対

飯田屋のように小さな店では、売場に置ける商品の数はたかが知れています。また、郊外店のような広い駐車場もないので、ご来店いただけるお客様の人数も限られます。

 

あまり世の中に知られていない商品の販売を少しずつ積み重ねて売上をつくる「ロングテール」という手法は本来、売場でのコミュニケーションコストのかからないネット通販が得意とするビジネスモデルです。飯田屋のような「超」がつくほど小規模の実店舗にとっては無謀な挑戦と見られています。

 

「まったく理解できない。ロングテールなんて不可能ですよ」

 

いくら経営コンサルタントに説明しても、首を横に振るばかり。もとより在庫管理に厳しい目を持っていた母は「売れない商品を棚に置いておくのは、現金を置いているのと同じようなもの」と猛反対です。

 

ほとんどの従業員も、呆れるように話を聞き流すだけ。ある先輩経営者には「そんなことをしたら、君のところ確実に潰れるよ」とまで言われました。

 

誰一人として応援してくれない中、営業部長の加藤だけは違いました。僕の考えを真剣に聞いてくれたのです。

 

黙って僕の話をひととおり聞いた後、加藤は言いました。

 

「おまえ、本当に料理道具が好きなのか? 本当にこの仕事が好きなのか?」

 

当時、僕は料理道具についての知識をまったく持っていませんでした。それでも、料理道具を通じてお客様の笑顔をつくりたいという思いには1mmの嘘もありません。

 

正直なところ、誰よりも飯田屋で長く働く加藤に相談するのはためらいがありました。これまでのやり方の否定にもなりかねないからです。何も相談せずにやってしまおうかとさえ思っていました。

 

しかし、安売り競争に参戦して失敗した経験から、一人で突っ走るばかげた真似だけはしないと決めていたのです。

 

「飯田屋のいいところは、本気でやりたいと思うことに挑戦させてくれるところだ。だから今でも、ここで働きたいと思える。もし、本気でやりたいのならやってみるといい。困ったことがあれば絶対に助けてやる。何かあったら俺のせいにすればいい」

 

加藤はすべてを包み込むように優しく声をかけてくれました。

 

今思えば、僕を後継者として育てようとあたたかく見守ってくれていたのだと思います。

 

 

飯田 結太
飯田屋 6代目店主

 

 

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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