(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年8月10日に公開したレポートを転載したものです。

4―森林火災への対策

森林火災は繰り返して起こる脅威である。行政では防火計画をつくり、日常からの備えを行っている。一方、保険会社は、モデルを設計して、森林火災による被害想定を精緻化しようとしている。

 

1.防火計画は、火災危険区域の詳細なマップ作成がカギ

 

森林火災が多発するカリフォルニア州政府は、州全域で火災と戦うための戦略的防火計画を策定している。たとえば、住民を教育し、財産を保護するために、州消防局などに専門機関を設置している。

 

2018年の戦略的防火計画には、森林火災の危険の特定、防火のための地域計画の策定支援、住民の防火意識の向上、防火や鎮火に必要な資源の決定などの目標が含まれている。併せて提供されている資料として、各郡の火災危険重大度のゾーンマップがあり、リスクの程度に応じて、異なる色で描かれている。これは、土地の可燃性物質、地形、天候を考慮した火災ハザードモデルに基づいている。

 

多くの都市には、火災危険区域の詳細なマップと表示を備えた独自の地方機関がある。これらの都市では、火災危険重大ゾーン(FireHazardSeverityZone)内に新しい建物を建築する前に、建築基準に準拠した建築許可申請書を提出する必要がある。一般に、こうした建築基準は、建物の周囲(防御可能な空間の創造)から可燃性物質を除去し、建物の建築に火災抵抗素材を用いることを要求している。

 

州のマップは2007年、地域のマップは2008~11年に作成された。その後、これらのマップは更新されている。マップの更新は、WUIの変化を加味した上で、森林火災リスクについて理解を促すものとなっている。

 

連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、WUIで住宅を建築するためのガイドを提供している。このガイドでは、森林火災が発生した場合に、建物が難を逃れる可能性を高めるための建築設計や建築方法について、詳細な推奨事項が提供されている。また、同庁は、地域の水資源や緊急車両のアクセスなど、地域社会のインフラを重視している

※各都市の都市計画や建築設計の所管部署は、最新のFEMAWUI建築勧告を確認する必要がある。

 

2.森林火災のモデル設計基準は未確立

 

保険会社は、災害リスクの管理にあたり、20年以上にわたって、ハリケーンや地震のシミュレーションモデルを使用してきた。これらに比べると、森林火災のモデル設計は、より困難とされている。

 

森林火災危険への曝露(エクスポージャー)や、火災発生時の損失の大きさは、土地によって大きく異なる。森林火災の危険にさらされる地域を、広範囲に特定することはできる。しかし、火災の際に、ある建物が焼失し、他の建物は延焼を免れるなどと、個々の建物ごとに理由付けしてモデル設計を行うことは、簡単ではない。

 

人為的な発火原因をどのように組み入れるかという点は、モデル設計を、さらに複雑にする。多くの要因と状況が考えられ、その違いにより、発生する保険損失の大きさは異なってくる。一般に、森林火災のモデル設計では、発火、燃料源、温度、湿度、季節的な風、土地利用と土地被覆、WUI、残り火と煙の影響、火災の検知と抑制能力、建物の構造と材料、保険契約条件など、さまざまな要因を考慮する必要がある。

 

森林火災モデルは、一般的なモデル設計の基準が、まだ確立していない。つまりハリケーンによる損失予測に用いられているような、事例研究に裏打ちされた信頼度の高いモデルがまだ整備されていない。このため、保険会社は、過去の地域ごとの損失実績に大きく依存している。どの規制機関のモデルも検討が不十分であり、現在は、その整備段階にあるといわれる。

 

3.森林火災のモデル設計にはさまざまな困難が伴う

 

他のモデル化された災害と同様に、森林火災のモデルの推定値には、大きな不確実性がある。森林火災のモデルごとに、予測結果に大きな幅があるのが現状である。通常、災害モデルの設定には、多くの仮定が含まれている。

 

以下は、森林火災のモデル設定を困難にしている障害の一覧である。これらの中には、気候リスクの潜在的影響のように、最近みられるようになったものも含まれている[図表3]。

 

[図表3]森林火災のモデル設計が困難な点
[図表3]森林火災のモデル設計が困難な点

 

予測結果の幅が広いからといって、どのモデルも不正確で、信頼性が低いというわけではない。しかし、予測結果の幅が広いことで、保険の顧客、規制当局、保険会社の経営陣に懸念が生じる恐れがある。継続的、定期的にモデルを使用することで、こうした懸念を軽減していくことが考えられる。

 

4.火災の多発がモデル設計を促進する可能性も

 

1992年のハリケーン・アンドリューがフロリダ州とメキシコ湾岸に及ぼした壊滅的な影響は、保険業界がハリケーンのリスクを評価する新たな方法を模索するきっかけとなり、最終的にハリケーン・モデルを広く採用する動きにつながったといわれる。

 

これと同様に、近年のカリフォルニア州における森林火災が、保険業界での森林火災リスクのモデル設定に対する理解を深めることに役立つのではないか、と期待する声もある。モデル設定が進まない背景には、詳細な給付支払データが欠如していたこともあげられる。

 

ただし、これについては、近年の森林火災で、多くの給付が行われており、データが整備されつつある。各州は、森林火災リスクのモデル設定の確認プロセスに、十分な注意を払う必要がある。国全体の規模で確認を行うことで、モデルの信頼性を効果的に高めることができるためだ。

 

森林火災については、カリフォルニア州が中心であることから、同州の規制当局が受け入れられるモデルとすることが重要となる。現在のところ、同州は、地震とそれに伴う火災の危険性について、複雑な災害モデルを使用することしか認めていない。

 

森林火災を含むその他の危険については、保険会社は、過去の複数年にわたる事象の長期平均を用いて、災害対策を策定することとされている。しかし、過去の損失の長期平均は、現在の森林火災リスクを正確に反映していない可能性が高い。

 

近年起こっているような重大な事象が発生した場合には、損害率の不安定性を助長してしまう可能性がある。規制当局は、森林火災モデルの利点を理解し、それに精通していくべきといえる。

 

次ページ5―立法措置と保険会社の対応

本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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