1―はじめに~働き方改革を中心とする改正医療法の影響は?~
6月16日に閉会した2021年通常国会(第204国会)では、医師の長時間勤務を制限する医師の「働き方改革」などを内容とする改正医療法が成立した。
この法改正では2024年度以降、医師の超過勤務を制限する方針に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、新興感染症への対応を医療計画に位置付ける制度改正など広範な内容が盛り込まれているため、医療機関の経営や地方行政の実務に様々な影響を及ぼす可能性がある。
本稿では、こうした広範な内容のうち、医師の働き方改革を中心に、医療制度に及ぼす影響や論点を考察する。具体的には、改正内容の概要を考察するとともに、医師の働き方改革がコスト増や診療体制の変更などを通じて、医療機関の経営や診療に及ぼす影響を考える。
さらに、他の提供体制改革との関係性も含めて、実務に当たる都道府県の役割なども考えることで、今後の論点や方向性を模索する。
2―改正医療法の内容と経過
改正医療法は2021年2月2日に閣議決定された後、国会の審議では与党などの賛成多数で衆院を4月8日に通過した。
さらに、参院の審議では厚生労働副大臣が委員会に遅刻して野党が反発するハプニングも起きたが、参院本会議で5月21日、与党などの賛成多数で可決、成立した。その主な内容については、厚生労働省の資料から抜粋した図表1の通りである。
これを見ると、
1.長時間労働などが問題視されている医師の勤務時間制限を盛り込んだ医師の「働き方改革」に関する規定
2.医師の負担を軽減するため、各種職種の業務範囲を見直す「タスクシフト」に関する規定
3.地域の実情に応じた医療提供体制改革
という3つに大別されている様子が分かる。さらに、医療法や医師法、地域医療介護総合確保促進法など、幾つかの法律が一括して取り扱われた点と、医療提供体制改革に関する広範な内容をカバーしている点を見て取れる※。
※提出時点の正式名称は「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」であり、医療法や医師法、感染症法、労働基準法など幾つかの法律が一括して提出された。ここでは煩雑さを避けるため、「改正医療法」「医療法改正」と総称する。
具体的には、本稿で取り上げる医師の働き方改革に加えて、▽新興感染症への対応を医療計画に位置付ける制度改正、▽病床再編などを目指す「地域医療構想」を進める一環として、病床削減を支援する交付金の恒久化、▽外来医療機能の明確化――などが盛り込まれている。
本稿は改正内容のうち、医師の働き方改革を中心に内容や論点を模索する※。その他の論点は全て重要なテーマだが、別稿に委ねたい。
※本稿の執筆に際しては、厚生労働省のウエブサイトに掲載された情報に加えて、『週刊社会保障』『社会保険旬報』『日経メディカル』『Gemmed』『m3.com』を参照したが、煩雑さを避けるために引用は最小限にとどめる。