元は可能だった「ペット飼育」…規約変更は可能か
以上のとおり、管理規約ならびに使用細則および総会の決議によってあらかじめペットの飼育禁止を定めることが可能です。
しかし、ペットの飼育禁止に関する管理規約等の条項を変更(新設、際止を含む。)する場合、当該変更後の条項が「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」には、当該区分所有者の承諾を得なければ、変更後の当該条項は無効になります(法31条1項後段)。
●「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」の判断基準
判例【最判平成10・10・30民集52・7・1604】は、「(一部の区分所有者の権利に)特別の影響を及ぼすとき」とは、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」とし、のちの裁判例もおおむねこの基準を用いています。
ア 特別の影響を否定した例――横浜地裁平成3年12月12日判決(判時1420号108頁)
同裁判例では、犬猫小島等の動物類の飼育を禁止する旨の管理規約の新設が、犬を飼育していた区分所有者に対し特別の影響を与えないかが問題になりました。
同裁判例では、上記判断基準を用いつつ、規約変更の必要性と合理性を下記の具体的要素から判断しました。
①当該マンションの区分所有者らにおけるペット飼育に関する共通認識(ペット飼育に対する注意の時期・程度、ペット飼育者自身の飼育禁止に対する認識、当該マンションのペット飼育率などから認定)
②当該ペット飼育が他の区分所有者に与える不利益の有無(具体的飼育の状況などから認定)
③ペット飼育に関する国民の意識・社会情勢(他のマンションの管理規約におけるペット飼育の禁止率などから認定)
また、ペット飼育者の受ける不利益については、上記①②③の程度を踏まえ、盲導犬のように「動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する特段の事情がある場合」には「特別の影響」が認められると付言しました。
この「特段の事情」について、同裁判例の控訴審である東京高裁平成6年8月4日判決(判時1509号71頁)では、治療的効果や、専門治療上必要であることの立証がないことから、結論として受忍限度を超えた不利益はないと判断しています。