従来のマーケティングや販売戦術は激変する
しかし、そんな時代は過ぎ去った。新たな期待を抱いた買い物客は、独自の明確な価値を持つ店に、時間と費用をかけるようになる。それがない店は、埋もれたまま消えゆく運命にある。
■絶滅するか、新たな時代に適応するか
飛行機での出張からオンラインへの移行、現代的な生活の解体、場所に縛られていた仕事や教育からの解放、体験のあり方の見直しなど一連の動きを受け、私たちは工業化時代を脱出し、ポストデジタル時代への境界を越えようとしている。新型コロナウイルスは、単に未来へ向かう時間を早送りしただけではない。
はるか遠くの場所へ瞬間移動ができる時空のトンネルや時間の歪みをワームホールと呼ぶのだが、新型コロナウイルスは、100年に一度あるかないかのワームホールのようなもので、私たちの未来をがらりと変えてしまう力を秘めている。
ブランドや小売店がここまで小売りの道を切り開いてきたことは確かだ。だが、私たちが一気にスピードを上げて新しい時代への境界を突破する際に、多くのブランドや小売店は古びた遺産として取り残されることになる。そして進化の過程で犠牲となった絶滅種として、歴史の脚注欄に小さく記録されるのだ。
一方、生き残るブランドは、従来のマーケティング手法や販売戦術を抜本的に見直し、これまでとは違う新たな消費行動パターンに適応するはずだ。パンデミック収束後の世界にようやくたどり着いた私たちを待ち構えているのは、単にコロナ禍で加速されただけの小売業界ではない。それどころか、恒久的に変貌を遂げた産業や消費者がそこにいるだろう。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント