(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍で変貌したのは、小売業界だけにとどまらない。大きく変貌した「産業」、そして「消費者」について見ていこう。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ストリーミング配信は観客に選択肢を与えた

何ごとにつけてもまず否定する人々はどの世界にもいるが、その言い分は技術的には間違っていなかった。だが、同時に重要なポイントをいくつか見逃していたことも事実だ。

 

第1に、音楽のストリーミング配信は単なる技術の移行ではなく、まったく新しいビジネスモデルの出現だったのである。今や、音楽ファンは、高い金額を払ってアルバムをまるごと手に入れるのではなく、月額定額料金を払えば好みの曲だけを無制限にストリーミング配信で楽しめるようになった。

 

第2に、膨大な数の曲が揃っていて、利便性にも優れている。これは音質面の欠点を補ってあまりあるメリットだ。

 

第3に、評論家らは、音楽のストリーミング配信技術が急ピッチで飛躍的に向上する可能性を甘く見ていた。実際、ストリーミング配信は、レコードやCDと同じ忠実度を再現するどころか、実質的に両者を絶滅に追いやってしまったのだ。多くの関係者にとって十分な水準の技術と、少なくとも消費者にとってはるかに魅力的なビジネスモデルの掛け合わせだったのである。

 

音楽のストリーミング配信は単なる技術の移行ではなく、まったく新しいビジネスモデルの出現だという。(※画像はイメージです/PIXTA)
音楽のストリーミング配信は単なる技術の移行ではなく、まったく新しいビジネスモデルの出現だという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

同様に、ライブストリーミングのイベントはミュージシャンや俳優、アーティスト、さらには私のような専門家に至るまでが活用するようになり、利用しやすく手軽でコスト削減も可能となれば、多くの人々にとって魅力的な選択肢と映るのもうなずける。

 

体験型イベントの本質がこのように変化すると、分配に伴う経済性も変わる可能性がある。2019年、私はスケジュールの調整がつかないために、少なくとも十数件のイベントをあきらめざるを得なかった。調整がつかなかったケースのほとんどは、会場間の移動を考えると次のイベントに間に合いそうもないことが理由だった。

 

だが、パンデミック中は、1日で時間帯がまったく異なる地域を対象に、複数のイベントをライブストリーミングで配信できるようになった。

 

重要なのは、ライブストリーミングであれ、他の技術であれ、生のイベントの興奮を完全に置き換えられるかどうかではない。「観客に選択肢を与える」という意味で明らかに影響力があるのだ。

 

そこで自問自答してみよう。あなたは本当にスタジアムや販売店、アリーナ、ナイトクラブに足を運ぶ必要があるのか。もしかしたら、ライブストリーミングで済ますことができるのではないか。実生活で「何か」を体験する際、手間、コスト、時間をかけるからこそ、価値に対する期待も高まるのである。では、それだけの時間や手間、費用をかける価値があったのか。

 

これは、小売業者にとって特に重要な視点だ。心の底から正直に言うなら、ごくわずかなケースを除き、小売業界は、消費者に貴重な時間を割いてまで足を運んでもらうほど価値のあるショッピングの機会など生み出していない。実際、買い物中の消費者の心のなかでは、往々にして葛藤と失望と不満が渦巻いている。工業化時代の小売りなら、それでも乗り切ることができた。消費者に選択肢がなかったからだ。

 

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小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

ダグ・スティーブンス

プレジデント社

アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

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