(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年8月26日に公開したレポートを転載したものです。

2―ASEAN5各国の感染状況と政府の封じ込め措置

■インドネシア:感染状況の改善が進み、ジャカルタ首都圏の行動規制を緩和

 

インドネシアでは、政府がイスラム教の断食明け大祭(レバラン、2021年は5月13~14日)に合わせて帰省禁止措置(6~17日)を実施し、5月末まで帰省の取り締まりを強化したが、人の流れを十分に抑制することできず、その影響は6月に入って顕在化して感染第2波が到来した[図表5]。

 

[図表5]インドネシアの新規感染者数の推移
[図表5]インドネシアの新規感染者数の推移

 

1日あたりの新規感染者数は7月中旬に5万人に達し、患者用ベッドや医療用酸素が不足するなど医療体制は逼迫した状態となった。

 

インドネシア政府は感染再拡大を受けて7月初旬から人口の多いジャワ島と観光地のバリ島に緊急活動制限(PPKMダルラット)を実施、出社を原則禁止するなど人の移動を大幅に制限した。その後は各種の行動制限の効果が浸透して新規感染者数がピークアウト、足元では1日あたりの新規感染者数は1万人台まで減少してきている。

 

インドネシア政府は感染状況に改善がみられるとして、8月から出社制限の緩和や商業施設の営業再開など慎重に経済再開を進めており、さらに30日にはこれまで感染リスクの高い「レベル4」地域に指定していたジャカルタ首都圏などでも1段階低い「レベル3」への移行を決定している。

 

■タイ:都市封鎖の対象地域拡大により感染状況改善の兆し

 

タイでは今年4月中旬のタイ正月(ソンクラーン)に伴う旅行や帰省が増えたことがきっかけとなり、感染第3波が発生した。1日あたりの新規感染者数は4月初の100人未満から6月末には5,000人程度まで増加した[図表6]。

 

[図表6]タイの新規感染者数の推移
[図表6]タイの新規感染者数の推移

 

この間、タイ政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間制限など行動規制を次第に強化していったが、デルタ株の猛威を止められず、感染拡大ペースは加速した。

 

タイ政府は7月中旬に首都バンコクを含む10都県(全77都県)を対象に夜間外出禁止など事実上の都市封鎖措置を発令し、8月には都市封鎖の対象地域を29都県に拡大したほか、工場労働者や建設現場の作業員に対して自宅や工場以外への移動を制限するバブルアンドシールの追加措置を講じるなど行動規制を強化する動きを続けた。

 

こうした厳格な感染対策が奏功して、1日あたりの新規感染者数は8月13日の約2万3,000人をピークに改善に転じ、足元では2万台を割ってきている。第3波はピークアウトの兆しが見えつつある。

 

■マレーシア:ワクチン接種の進展で感染拡大ペースが鈍化、規制緩和に舵

 

マレーシアでは、今年2月をピークに感染第2波が沈静化した後、4月に入って第3波が到来した[図表7]。

 

[図表7]マレーシアの新規感染者数の推移
[図表7]マレーシアの新規感染者数の推移

 

マレーシア政府は5月12日から全国で3回目となる厳格な活動制限令(MCO3.0)を実施して州をまたぐ移動やレストランなどでの店内飲食を禁止したが、イスラム教の断食明け大祭(ハリラヤ・プアサ、2021年は5月13~14日)後に感染ペースが加速した。

 

マレーシア政府は6月から全土で大規模な都市封鎖を実施して国が必要不可欠と認めた業種以外の社会・経済活動が禁止されることとなった。しかし、その後も変異株の蔓延や規制疲れなどによって感染拡大に歯止めがかからず、新規感染者数は1日あたり2万人台に達した。

 

マレーシア政府はコロナ禍からの復興の道筋として「国家回復計画(NRP)」を4段階で示し、感染状況やワクチン接種などの目標を定めて州ごとに段階的な制限緩和を進めている。

 

現在首都圏を含む8つの州および連邦直轄領(全体で16)は4段階のうちの第1期1(都市封鎖に相当)のままだが、このところマレーシア政府はワクチン接種完了者に対する活動制限の緩和を矢継ぎ早に打ち出している。

 

まず8月10日から国家回復計画の第2期以降にある地域においてワクチン接種完了者の店内飲食や州内の移動制限などが一部緩和、20日には同様の規制が第1期の地域にも適用された。また同月16日から従業員のワクチン接種率に応じて企業の操業規制が緩和されている。

 

足元の感染拡大ペースは鈍化してきたとはいえ、感染第3波が沈静化していないなかで見切り発車に近い形での規制緩和となっている。1国家安全保障会議(NSC)は第2期への移行の目安について、1日当たりの新規入院患者数が成人人口10万人当たり6.1人未満となり、ワクチン接種率(2回完了)が成人人口比で50%以上、集中治療室(ICU)の病床使用率が「中程度」であることとしている。

 

■フィリピン:経済への影響を考慮して外出・移動制限を1段階引き下げ

 

フィリピンでは今年3月から変異株の流入や規制疲れなどによって感染第2波が発生した[図表8]。

 

[図表]フィリピンの新規感染者数の推移
[図表]フィリピンの新規感染者数の推移

 

3月15日からマニラ首都圏が夜間外出禁止令を発令するなど各自治体が制限強化に舵を切り、同月29日にはフィリピン政府が首都圏と周辺4州における外出・移動制限措置を最高水準に引き上げた。住民は食料品の購入など必要不可欠な外出以外が禁止され、企業活動は食品や医薬品、銀行、輸出加工型などに限られることとなった。

 

各種の感染対策が奏功して4月中旬に感染状況がピークアウトするのとほぼ同時に、フィリピン政府は医療態勢の改善を理由に首都圏・周辺州における外出・移動制限を最も厳しい措置から1段階引き下げることを決めた。

 

もっとも第2波が沈静化していない段階での制限緩和となったため、その後も感染が高止まりすると7月下旬に第3波が到来した。フィリピン政府は8月6日から首都圏・周辺州の外出・移動制限措置を再び最も厳しい水準に引き上げたが、デルタ株の封じ込めに苦戦を強いられ、足元の1日あたりの新規感染者数は再び1万人台を突破して過去最多を更新している。

 

病床使用率が全国で71%となるなど病床不足は深刻だが、政府は経済活動への影響を考慮して8月21日から首都圏・周辺州における外出・移動制限を最も厳しい措置から再び1段階引き下げることを決めた。今後は外出制限の緩和によって人流が増えて感染拡大ペースが加速する恐れがある。

 

■ベトナム:感染に歯止めがかからず、社会隔離措置を強化

 

ベトナムはこれまで厳しい水際対策や濃厚接触者の強制隔離などが奏功して短期間で感染を収束することに成功してきた。しかし、今年4月末に北部を中心に感染第4波が広がると歯止めがかからない状況に陥った。

 

政府は当初感染源となっていた北部2省(バクザン省、バクニン省)を中心に首相指示16号に基づく社会隔離措置を講じて1日あたりの感染者数を6月まで100~300人程度に抑え込んでいたが、人口密度の高い南部ホーチミン市に感染が広がると、感染源の特定が難しくなり感染者が急増した。

 

ホーチミン市は7月9日から社会隔離措置を適用して事実上の都市封鎖に入って外出や他地域との移動が原則禁止になった。その後も社会隔離措置の対象範囲が南部19省市全域に拡大し、北部ハノイ市(首都)や中部ダナン市などの大都市も相次ぎ行動規制が厳格化されたが、感染状況は改善せず、足元では1日あたりの新規感染者数が1万人台に達している。

 

第4波の被害が最も深刻なホーチミン市では8月23日から9月6日まで外出禁止措置が終日となり、政府は更なる規制強化で感染拡大を防止する姿勢を明確にした。政府は第4波の収束目標時期について、ホーチミン市が9月15日まで、南部の工業地域3省が9月1日まで、その他が8月25日までと示しているが、既に目標達成時期を見直す必要に迫られている。

 

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本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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