要旨
日本では、働き方改革関連法が2019年4月から順次施行されている。しかし、医師については、医師法で応召義務が定められていることなどを理由に、その適用が5年間猶予されている。
新型コロナウイルス感染症では、感染が疑われる患者を診療拒否することが、応召義務違反となるのかどうか、議論された。そもそも、応召義務とはどういうものか。
その考え方は、どのように整理され、新型コロナの診療に適用されているのか。概観していくこととしたい。
1―はじめに
日本では、残業規制強化や同一労働同一賃金などを含む、働き方改革関連法※1が2019年4月から順次施行されている。しかし、医師については、医師法で応召義務※2が定められていることなどを理由に、その適用が5年間猶予されている※3。
※1 正式名称は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」。労働基準法など、8つの労働法の改正を行うための法律を指す。
※2 本稿では、広辞苑等の国語辞典で掲載されている「応召義務」という漢字を用いる。ただし、「召」という漢字は戦前の軍隊の召集を想起させることや、旧刑法等で「招」という漢字が用いられていたことなどから、「応招義務」という名称が適切であるとの意見が、専門家の間では多くを占めている。
※3 その後、2021年5月に成立した改正医療法で、医師の時間外労働の上限規制の詳細が定められた。
2020年より流行している新型コロナウイルス感染症では、感染が疑われる患者を診療拒否することが、応召義務違反となるのかどうか、その適用条件が議論された。
そもそも、応召義務とはどういうものか。その考え方は、どのように整理され、新型コロナの診療に適用されているのか。本稿で、概観していくこととしたい。