要旨
医療従事者、高齢者に続き、現役世代においても新型コロナウイルスのワクチン接種が始まっている。しかし、ワクチン接種を希望していない人も一定数いる。
特に、新型コロナウイルス感染症に罹っても重症化しにくいとされる若者のワクチン忌避が注目されがちであるが、年齢以外にも接種意向を決める要因がある。本稿では、「ヘルスリテラシー」に注目し、接種意向との関係を分析した。
その結果、性・年齢や持病の有無、仕事の内容の影響、世帯年収等による影響を除外しても、ヘルスリテラシーが高いほど接種意向が高いことがわかった。ワクチン接種を進めるためには、情報収集が苦手な人にでも理解できるように情報を提示する必要があると考えられる。
1―はじめに
医療従事者、高齢者に続き、現役世代においても新型コロナウイルスのワクチン接種が始まっている。しかし、ワクチン接種を希望していない人も一定数いる。
特に、新型コロナウイルス感染症に罹っても重症化しにくいとされる若者のワクチン忌避が注目されがちであるが、年齢以外にも接種意向を決める要因がある。
例えば、持病があること、高齢者と同居していること、高齢者と接する機会が多いこと等、ワクチン接種によって直接メリットがあると接種を希望する傾向がある。また、自分自身に直接メリットがなくても利他的な人では、接種の意向は高い傾向がある。
本稿では、「ヘルスリテラシー」に注目し、接種意向との関係を分析した。その結果、性・年齢や持病の有無、仕事の内容の影響、世帯年収等による影響を調整しても、ヘルスリテラシーが高いほど接種意向が高い傾向があることがわかった。特に、いろいろな情報源から情報を集めることができるかどうかとの関係が強いようだ。
つまり、情報を集めることができている自信がない人ほど、ワクチン接種意向が低い。ワクチン接種を進めるためには、情報収集が苦手な人にも理解しやすい情報を届ける必要があると考えられる。
使用したのは、ニッセイ基礎研究所が被用者(公務員と企業に勤める人)を対象に定期的に実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」である。
2―ヘルスリテラシーとは
WHOによると、ヘルスリテラシーとは、健康情報を獲得し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり、それによって、日常生活におけるヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションについて判断したり意思決定したりするなど、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるものである。
ヘルスリテラシーが不足すると、病気の兆候に気づくのが遅れたり、健康維持や増進に向けた行動が継続できなかったり、予防サービスを利用しない等の弊害があるとされている。
例えば、日本政策研究機構の「働く女性の健康増進調査2018」では、女性に関するヘルスリテラシーの高さが仕事のパフォーマンスの高さに関連していること、臨んだ時期に妊娠することや不妊治療の機会を失することがなかったこと、女性特有の疾病や症状に対して症状があったときに対処できること等を紹介している。