60代の若さで母が突然死、ショックを受けた父も倒れ…
今回の相談者は、父親のクリニックに勤務する、医師の佐藤さんです。両親が相次いで亡くなり相続が発生しましたが、会ったことのない腹違いの兄の存在があり、どう対応すべきか弱り果てているとのことでした。
佐藤さんの父親は代々続く医師の家系の出身なのだそうです。現在も本家は近畿地方で大きな総合病院を経営しています。しかし、本当はその総合病院の跡継ぎだった佐藤さんの父親は、病院経営の実権を握っていた祖父に勘当同然で家を追い出されてしまいました。
佐藤さんの父親は、実家の病院を追い出されたあと、大学の先輩の紹介で関東地方の総合病院の勤務医をしていました。それから数年後、佐藤さんの母親と出会って結婚。佐藤さんが生まれて間もなく勤務先から独立し、妻と二人三脚でクリニックを経営してきました。その後、妹が生まれました。
佐藤さんの妹も医師で、母校の大学病院で腕を磨いたあと、佐藤さんと同様に父親のクリニックで働いています。
ところが、父親とともにクリニックを切り盛りしてきた母親が、60代半ばで突然死してしまいました。経営のほとんどを母親任せにしていた父親は、ショックが大きかったのか、あっという間に体調を崩し、母親が亡くなってから半年後、後を追うように亡くなってしまったのです。
大病院の跡継ぎだった父親が生家を出奔した理由
じつは佐藤さんの父親は、母親と出会う前に、結婚しようと考えていた女性がいて、男の子もひとり生まれていました。戸籍上は佐藤さんの兄になります。祖父から追い出されたのも、この出来事が原因でした。祖父は相手の女性にまとまった金額のお金を渡して佐藤家と縁を切るよう迫り、女性はそのまま出身地へ帰郷してしまいました。
佐藤さんは大学時代に、酔っぱらった叔父からこの話を聞かされましたが、両親にいくら尋ねても、ふたりは一切を語りませんでした。
父の葬儀のあと、叔父に話を聞いたところ、理由は不明ですが、父親が結婚を考えていた女性のことを祖父がひどく嫌い、縁続きになることを許さなかったのだそうです。その後、父親は女性を探したそうですが、どうしても見つけられず、あきらめたというのが真相のようでした。
遺言書を残していなかった、几帳面な父
佐藤さん自身も、一度も会ったこともない兄であり、きょうだいという気持ちは持てません。とはいえ、戸籍謄本で確認すると確かに認知されており、れっきとした相続人のひとりなのです。法定割合では財産の3分の1の権利を有しているだけでなく、今回の父親の相続において、相続人の間で遺産分割の話し合いを持つ必要があります。
しかし、もし父親の遺言書があればその内容が優先されることになります。佐藤さんは几帳面な性格の父親なら、遺言書を残しているかもしれないと思い、貸金庫のなかや書類が入っていそうな場所をくまなく探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。
佐藤さんが心配していたのは、クリニックの今後のことでした。両親はあまり預貯金を残しておらず、もし会ったこともない兄に3分の1の遺産を渡してしまったら、クリニックの経営が続けられないのです。
佐藤さんは頭を抱え込み、相談先を探して筆者の事務所に訪れたのでした。