(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックを経営していた両親が相次いで死去。両親の病院に勤務していた医師の兄妹が急ぎ承継しなければなりません。しかし父には、若いころにもうけた婚外子がひとりいました。法定通り婚外子に3分の1の遺産を渡せば、クリニックの経営が立ち行きません。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

「財産を渡すと、クリニックが続けられない…」

「兄がいることは知っていましたが、会ったこともありませんし、会う機会があるとも思いませんでした。ただ、事情を知る限り、かなりご苦労されたのではと思いますし、もちろんできることなら応えたい。ですが、父から承継したクリニックを続けるには、法定通りの財産を渡すのは無理なのです。几帳面な父が遺言書でも残しているかと思ったのですが、本人も、こんなに早く亡くなるとは思わなかったのでしょうね…」

 

 

会ったことのないきょうだいについて、双方が複雑な思いを抱えていることは想像に難くありません。しかし、万一話し合いがこじれて裁判になれば、大変な思いをすることは明らかです。筆者からは、最低でも財産の6分の1は渡す必要があるため、その点については覚悟してほしいこと、感情的になってもいい結果にはならないので、冷静でいてほしいことを伝えました。

「お2人にはよろしくお伝えください」

財産の整理と財産評価が完了したため、いよいよ非嫡出子の異母兄との話し合いを開始することになりました。まずは手紙で、筆者の会社が分割協議の委任を受けていることをお知らせし、連絡を取って合う段取りをつけました。

 

佐藤さんの兄は、関西地方で会社員をしていました。面会して事情を伝えたところ、佐藤さんと妹さんの置かれた状況に理解を示してくれ、その結果、法定割合からみると相当少ない、数百万円程度の現金で折り合ってもらえることになりました。話し合いはあっけないほどスムーズに進み、2回目の面会時に遺産分割協議書に実印をもらい、筆者の役目は完了しました。

 

佐藤さんの兄は、父親はいないものと思って育ったのだそうです。しかし、母親や母方の親族にとても大切にしてもらったとのことでした。

 

「決して裕福ではありませんでしたが、不自由な子ども時代ではありませんでした。地元の国立大学を出て、地元の企業に就職して、家庭を持って…本当に普通ですねぇ。僕の母はまだ元気ですよ。お目にかかる機会はありませんでしたが、お2人にはよろしくお伝えください」

 

今回の場合、もしも高圧的な態度で話し合いに臨めば、着地はまた違ったものになったかもしれません。しかし、冷静かつ率直に事情を伝えたところ、母違いの兄からは協力的な対応をしてもらうことができました。

 

今回の話に限ったことではありませんが、相続人にはそれぞれの立場や思いがあります。自分の考えや感情を相手にぶつけるだけでは、話し合いはスムーズに進められないでしょう。相手の感情を刺激するようなことをすれば、トラブルは必至です。一度こじれてしまえば、事態の収拾は簡単ではありません。

 

それらをしっかりと認識したうえで、互いに歩み寄って折り合いをつけていくことが、なによりも重要なのです。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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