これまでの信頼関係を打ち砕いた「何気ないひとこと」
今回の相談者は、70代の専業主婦の北野さんです。北野さんの夫は公務員で、定年退職後はずっと年金生活でした。北野さんは後妻で、先妻は3人の子どもを残して亡くなっています。北野さんが結婚したのは40歳のときで、夫はひと回り以上年上という、年の差夫婦です。
北野さんが結婚した当初、3人の子どものうち、長女と二女は結婚して家を出ていましたが、末っ子の長男は独身で同じ敷地の離れに住んでいました。北野さんには子どもがなく、先妻の子どもたちとの関係は良好でした。北野さんの夫は70代になってから体調が思わしくなく、数回の手術と入退院を繰り返したあと、数ヵ月前に88歳で亡くなりました。
夫の葬儀は北野さんが喪主となり、滞りなくすませることができましたが、四十九日の法要のあと、食事の席で何気なく発したひとことが引き金となり、子どもたちとの信頼関係が大きく損なわれてしまったのです。
親族だけの食事会の席で、北野さんは長女から声をかけられました。長女は葬儀や法事の労をねぎらい、お礼の言葉を伝えたのですが、そのとき北野さんは、担当医からそろそろ危ないと伝えられたあと、夫名義の口座が凍結されるといけないから、葬儀費用を確保するため、一部を急いで自分の口座に移した、あのときがいちばん慌てた…と話したのです。すると、隣で話を聞いていた長男が、
「なに!? 俺たちに相談もなく、勝手に親父の金を自分のものにしたのか!」
と大声をあげました。長女と次女は目を丸くしたまま、北野さんを凝視しています。北野さんは必死になって弁明しましたが、激高した長男は収まりません。しまいには「親父の財産を隠すつもりか!」と詰め寄られ、最悪な状況となってしまいました。
子どもたちは北野さんに年老いた父親の世話を任せきりにしたまま、見舞いにもほとんど訪れませんでした。しかし北野さんは、それも自分が信頼されているからだと考え、不満をいうこともなく、病気がちになった夫へ献身的に尽くしてきたのです。
それなのに、葬儀費用の一部として100万円にも満たない預貯金を移動しただけで、なぜここまでいわれなければならないのか…。北野さんは、義理の親子ながら信頼関係を築けてきたとの自負があっただけに、ひどくショックを受けました。
その後、相続に関する話し合いを持ちましたが、結局は3人の子どもたちが感情的になるばかりで、話はまったく進展しません。
弱り果てた北野さんは、第三者を入れなければ無理だと判断し、筆者の元に訪れたのです。
「父と母の財産なのに、なぜ後妻が…」
北野さんの暮らす自宅は、結婚したときに夫所有の敷地に建てたものです。しかし、そもそもその土地は先妻の所有地で、そこに北野さんの夫が家を建て、先妻と子どもたちとで暮らしていたのです。先妻が亡くなったとき、土地は北野さんの夫名義になりました。
結婚が決まった際、これまでの古い自宅を取り壊し、2人で暮らすこじんまりした2階建てを新築することになりました。北野さんは建築費の半分を結婚前の預金から出し、残りは北野さんの夫が住宅金融公庫から借入しました。自宅の名義を半分北野さんにすればよかったのですが、手続きの際にそのような話が出ることもなく、成り行きですべて夫名義として登記されてしまいました。子どもたちはその事情を知らないため、いまさら説明したところで、理解してもらえそうにありません。
さらに悪いことに、北野さんは夫の口座を使って生活費を管理してきました。結婚後は自分の給料を、退職後は年金をその口座にわざわざ入金し、夫のお金と合わせて共通のお金として夫婦で使っていたのです。ふたりとも倹約家であったため、かなりの金額が積み上がっています。しかし、それもすべて相続財産として計上されてしまいます。
先妻の子どもたちは、北野さんはあくまでも父親のパートナーで、自分たちの母親という認識はありません。結婚当初、3人の子どもはすでに成人していたため、養子縁組の手続きもしていません。
とくに長男の態度は強硬で、「両親の財産を、なぜ後妻が半分も持っていくのか。あの土地は亡くなった母のものだから、絶対に渡せないし、父亡きあとに住み続けることも許せない」といって譲りません。
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